研究課題/領域番号 |
17K06493
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
古谷 栄光 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (40219118)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血糖値制御 / 重症患者 / インスリン感度 / 範囲モデル予測制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,重症患者の血糖値を死亡率や合併症の罹患率を低下できるとされている範囲に維持する厳格な血糖値管理を安全に行う方法の開発を目的として,重症患者のインスリン感度の経時的変動の解析,経腸投与グルコースによる血糖値変化,インスリン感度の変動を考慮に入れた血糖値予測法および血糖値制御法の検討を行った.得られた結果は以下のとおりである. 1. 術後の患者のインスリン感度は,とくに12時間後から36時間後の時間帯に上昇する傾向がみられることがわかった.また,術式が同じでも疾患により変動の特性が異なることが示唆される結果が得られた.さらに解析を進めて,手術や疾患によるインスリン感度変動特性の差を明らかにする必要がある. 2. 経腸投与グルコースの吸収率については,インスリン感度の変動と相互に影響するため,回復にしたがって上昇する可能性が高いことは推測されるが,モデル構築のためには血中インスリン濃度など,通常の治療時の測定データとして得られないデータが必要であることがわかった. 3. オンライン同定により得られる過去数時間のインスリン感度の変動から予測したインスリン感度を利用して血糖値を予測した場合と現時点のインスリン感度を用いて血糖値を予測した場合を比較すると,予測インスリン感度を利用した方が血糖値予測精度が高いことがわかった.よって,血糖値制御を行う際には予測インスリン感度を利用することが適切である. 4. 前年度に検討したとおり,持続血糖測定器にはある程度の測定誤差があることから,目標範囲を誤差を考慮に入れて設定した範囲モデル予測制御を利用した重症患者の血糖値制御法を構成した.また,較正が適切に行われる際に想定される大きさの測定誤差がある場合のシミュレーションにより,血糖値をおおむね目標範囲に維持できることを確認した.今後,インスリン感度の予測と組み合わせた制御法の検討を進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度までに行う予定であった重症患者のインスリン感度変動のモデル化については,変動の大きい時間帯を明らかにすることができたが,手術や疾患の種類を考慮に入れたモデルを構築するには至らなかった.また,経腸投与グルコースによる血糖値変化のモデル化については,インスリン感度変動の影響が大きく,血中インスリン濃度などの測定データが必要であり,現有のデータから行うのは困難であることがわかった.しかし,インスリン感度の予測法については,おおむね期待していた精度の方法が構成でき,持続血糖測定器の誤差についても適切な時間間隔で較正が行われる場合には問題なく対応できることが確認できた. 一方,平成31年度に行う予定であった血糖値制御法の検討もすでに進めており,持続血糖測定器による測定誤差を考慮に入れた範囲モデル予測制御により血糖値を目標範囲に維持できることをシミュレーションで確認しており,この点については予定より研究が進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
まず,重症患者のインスリン感度変動への影響のモデルを手術や疾患の種類を考慮に入れて構築する.最初に,これまでに得られている臨床データに基づいてインスリン感度変動のモデルを構築し,新たに得られる臨床データに基づいて検証および修正を行う. 次に,インスリン感度のオンライン同定結果を利用したインスリン感度の予測方法についてさらなる検討を行う.この際,予測時間や予測に利用する同定結果の時間範囲などについて検討し,予測誤差が大きくならないような予測法を構成する. さらに,これらを持続血糖測定器の測定誤差を考慮に入れて目標範囲を設定できる範囲モデル予測制御と組み合わせて,より性能の高い血糖値制御法を構成する.この際,測定誤差と予測誤差を考慮した目標範囲の設定方法の検討,予測の効果が最大となるオンライン同定法およびインスリン感度の予測法などを検討し,より望ましい血糖値制御法となるように予測法なども含めて必要な修正を行う.さらに,構成した制御システムを医師に示し,臨床応用可能なシステムとなるように改良を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度から所属が変更となったため,研究協力者の所属する香川大学および京都大学との研究体制を改めて構築する必要があった.これに時間を要したため,データ取得が当初の予定どおり進まず,データ取得や解析などに使用する予定であった費用の使用が進んでいない.しかし,次年度は新たな血糖値測定機器の導入などにより今年度取得予定であったデータも含めて取得する目途がついたので,次年度に使用する予定である. また,次年度に交付を受ける研究費は,重症患者のインスリン感度変動のモデルの構築,インスリン感度の予測法の検討のためのデータの取得と解析,血糖値制御法の検討,旅費および成果発表のために使用する.
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備考 |
講演 古谷栄光,「患者の生理状態の自動制御技術 ~麻酔の自動制御と糖尿病患者の血糖値管理~」,兵庫県立大学 神戸大学 第3回医工学連携セミナー,2018年8月1日,神戸大学医学部附属地域医療活性化センター
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