研究課題/領域番号 |
17K06493
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
古谷 栄光 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (40219118)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血糖値制御 / 重症患者 / インスリン感度 / モデル予測制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,重症患者の血糖値を死亡率や合併症の罹患率を低下できるとされている範囲に維持する厳格な血糖値管理を安全に行う方法の開発を目的として,重症患者の糖代謝モデルの改良,血糖値制御システムの評価を行うための重症患者のインスリン感度の経時的変動を考慮に入れた仮想患者の開発,インスリン感度の変動を考慮に入れた血糖値予測法および血糖値制御法の検討を行った.得られた結果は以下のとおりである. 1.倫理委員会の承認を得たうえで,香川大学医学部附属病院の術後患者26名の経静脈・経腸投与グルコースとインスリン投与速度および血糖測定値のデータに基づいて,インスリン感度のみに変動があるものとして,本研究で構築した重症患者糖代謝モデルのパラメータを同定した.また,同定したモデルパラメータを用いたモデルにおいて,インスリン感度変動のみで血糖値変化を精度良く表せることを確認した.さらに,シミュレーションにより適切な制御性能の評価を行うため,26名の患者の血糖値変動を表せる新しい仮想患者を構築した. 2.オンライン同定により得られる過去のインスリン感度の変動から予測したインスリン感度を利用して血糖値を予測する場合,長時間先までインスリン感度を予測すると過去の変動傾向の影響が大きくなりすぎ,現在の変動から大きく外れた予測を行うことがあるので,インスリン感度の予測は1時間程度先までにすることが適切である. 3.範囲モデル予測制御を用いた血糖値制御法を仮想患者に適用した結果,通常のモデル予測制御と比較して低血糖回避性能が高いが,範囲の上側に外れる時間率が高くなった.より適切な制御を行うためには,目標範囲等の制御パラメータの設定についてさらに検討が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で行う予定であった重症患者のインスリン感度変動のモデル化については,変動の大きい時間帯を明らかにすることができているが,臨床データが少なく統計的に有意な結果を得るには至っていない.しかし,インスリン感度の同定法および予測法については,おおむね期待していた精度の方法が構成でき,持続血糖測定器の誤差についても適切な時間間隔で較正が行われる場合には問題なく対応できることが確認できた.さらに,臨床データに基づいて実際の患者と同様の血糖値変化をシミュレーションできる仮想患者を構築し,また仮想患者に対するシミュレーションにより,範囲モデル予測制御を用いることで低血糖を回避しながら血糖値制御を行える可能性を示唆する結果が得られている.
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今後の研究の推進方策 |
重症患者のインスリン感度変動への影響のモデルを手術や疾患の種類を考慮に入れて構築するために,さらに臨床データを追加して検討を行う.まず,変動の大きい時間帯について一般性があるかどうかをを明らかにする.次に,手術や疾患の影響があるかどうかを統計的に検討する.さらに,以上の結果を考慮に入れて,インスリン感度変動のモデルを構築し,臨床データに基づいて検証および修正を行う. また,範囲モデル予測制御を用いた血糖値制御法の改良を行う.まず,より低血糖を回避できる制御法とするために,仮想患者への適用時に低血糖となる原因を把握し,それを回避するための方法を検討する.また,目標範囲などの制御パラメータを調整し,低血糖回避と至適範囲内での維持を両立できる設計を行う.そのうえで,臨床応用時に要求される性能を考慮に入れて,臨床応用への課題を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,重症患者のインスリン感度の経時的変動を明らかにし,モデル化を行うことを一つの目的としているが,現在までの術後ICU滞在患者についての検討では,術後特定の時間帯の変動に特徴があるという結果が得られているが,患者のICU滞在日数に大きなばらつきがあり,統計的に信頼性の高い結果を得るためには,当初予定よりも多くの臨床データが必要となったため,追加のデータ取得を実施し,解析を行う.
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