本研究では,重症患者の血糖値を死亡率や合併症の罹患率を低下できるとされている範囲に維持する厳格な血糖値管理を安全に行う方法の開発を目的として,重症患者の糖代謝モデルの改良,重症患者の血糖値を測定する際の持続血糖測定器の誤差の検討,インスリン感度の変動のモデル化と予測法の検討および低血糖回避を重視した血糖値制御法の検討を行った.得られた結果は以下のとおりである. 1. 重症患者の糖代謝モデルとして,最小モデルに基づくモデルにグルコース取り込みに関する非線形特性と経腸グルコース投与を追加し,インスリン感度を独立したパラメータとしたモデルを構築し,重症患者のデータに基づいてパラメータを設定した.このモデルにより,インスリン感度の変動を容易に扱えるようになり,従来より正確に重症患者の血糖値変化が表せることを確認した. 2. 重症患者における持続血糖測定器の誤差は,測定不能となる場合以外は,較正後,時間とともに大きくなるという従来の1型糖尿病患者に対する誤差モデルのパラメータを適切に設定することで表せること,また適当な時間間隔で較正を行えば誤差は±20mg/dL程度の範囲内にあると考えてよいことがわかった. 3. 術後患者のインスリン感度の変動はベースラインの変化と周期的変動を表す時間の一次式と正弦波の和でモデル化でき,周期的変動の周期の中央値は24.7時間となり,概日リズムによる変動と考えられること,ベースラインはほとんどで上昇し,上昇率は1日で10%程度となることがわかった. 4. 範囲モデル予測制御を用いた血糖値制御法により,目標血糖値範囲の上側に外れる時間率をあまり大きくせずに低血糖回避性能を向上できた.より適切な制御を行うためには,目標範囲等の制御パラメータの設定についてさらに検討が必要である.
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