研究課題/領域番号 |
17K06496
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
佐伯 正美 広島大学, 工学研究科, 特任教授 (60144325)
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研究分担者 |
和田 信敬 広島大学, 工学研究科, 教授 (50335709)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | データ駆動 / ロバスト安定化 / H∞ゲイン / 正規化既約分解 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,申請者のいままでの成果を発展させて,数式モデルによる安定化設計とデータ駆動設計の長所を生かした制御器設計法を構築し,2つの制御問題(モデルに基づく設計で安定化されたフィードバック系を制御対象としたデータ駆動設計,および,数式モデルから求めた安定制約を考慮したオンラインデータ駆動設計)に対する設計法を確立することである.本年度には,以下の2つの成果が得られた。 一つ目の成果を説明する。前年度に正規化既約分解によるループ整形を用いて,過渡応答データからH∞ノルムを指定値以下にする制御器のパラメータ集合を3次元空間に描画する方法を提案した。そこでは,H∞ノルムの下界を多数のバンドパスフィルタを用いたL2ゲインにより推定した。本年度はこの推定法をサンプル周波数におけるゲインを推定するために用い,バンドパスフィルタのパラメータの設定法を提案した。また,L2ゲインを推定する反復実験法を用いて最適なバンドパスフィルタを導出する方法を提案した。この成果は論文誌Automaticaに掲載されることとなった。 二つ目の成果を説明する。データ駆動によるオフライン設計は,不安定な制御対象への適用は極めて困難であるが,安定で非振動的な制御対象へは容易である。そこで,制御対象の数式モデルに対しロバスト安定化補償器を設計し,安定化された閉ループ系にデータ駆動によりPID制御器を設計する2段階の設計法を提案した。不安定,非最小位相,振動的などの制御しづらい制御対象に対しても,データ駆動設計が容易に適用でき,良好な目標値応答が得られる。正規化既約分解によるループ整形法で設計し,フィードバック系の構成を与えた。データ駆動設計では,安定度制約下で目標値応答を参照モデルの応答に近づける方法を提案した。この研究成果は徳島での講演会の資料で公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、モデルに対してPID制御器を設計し、オンラインデータ駆動制御を適用した.平成30年度は、モデルに対して正規化既約分解法で制御器を設計し、データ駆動設計法で制御器のゲインを調整する方法を開発し有効性を数値例で示した。平成31(令和元)年度は,バンドパスフィルタを用いたサンプル周波数におけるゲイン推定法を提案し,理論的な証明を行い,他の方法と比較した。さらに,数式モデルに基づくロバスト安定化により補償器を設計し,望ましい目標値応答を達成するために,その閉ループ系にデータ駆動によりPID制御器を設計する2段階の設計法を開発した。以上の成果により本科研の目標が基本的に達成された。特に,2つめの成果は本科研の主要な課題に対する直接の答えである。今後,データ駆動設計の多入出力系への拡張と数値実験による検証,および,オンライン駆動設計における安定性の保証という難しい課題が残されている。以上より,当初の目標はほぼ達成できているので,おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
過去3年間の研究で当初の目標はほぼ達成できた。令和2年度は,昨年の成果を数値例で検討し整理した内容を学会の論文誌に投稿することと当初から挑戦的な課題であったオンライン制御系の安定性解析を検討することである。すなわち,ロバスト安定化補償器とPID制御器の2段階設計法については数値例で有効性を検証し,さらに,データ駆動設計では多変数系への拡張を試みる。オンライン制御では,参照モデルに基づくPIDゲイン調整と既存のデータ駆動適応制御を比較検討する。前者の制御はPID制御器が扱え,応答特性を参照モデルで指定できるが,シミュレーションでは安定であるが安定性の理論的保証がない。後者の適応制御は制御入力を直接に生成する方法であり,PID制御器は扱えないが安定性が保証される。両者を比較検討することで,前者の安定性の保証,および後者に参照モデルによる性能指定の導入を検討し,具体的な方法を明らかにする。これらの成果を論文誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究はほぼ順調に進んでいたが,成果の整理と論文誌への投稿などの仕上げに時間が必要となり,研究期間を1年間延長するように経費の使用計画を変更した。経費は,旅費,学会参加費,消耗品費,英文校正費などに使う計画である。これにより,科研費をより有効に利用できると考えている。
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