研究課題/領域番号 |
17K06510
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 正光 京都大学, 防災研究所, 准教授 (10402968)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | PPP / PFI / 流動性 / リスク分担 / 再交渉 / 入札 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,Holmstrom and Tiroleによって提唱された流動性需給理論に基づき,PPP事業における適切なリスク分担に関する考え方の確立を目的としている.初年度となる平成30年度では,日本とフィリピンにおけるPPP事業を対象としてリスク分担に関する実態について調査を行った.その結果,両国とも,概ね「リスク事象を最も予測,制御できる主体が当該リスクを負担する」という原則に基づいてリスク分担が規定されていることがわかった.一方,例外として,事業の需要リスクの負担については両国で違いが見られた.すなわち,日本の大部分のPPP事業では,民間事業者は事業の需要リスクを負わないのに対して,フィリピン政府が望ましいとするデフォルトの契約条件では民間事業者が負うと規定されていることが分かった.また,望ましいリスク分担に係る考え方の違いは,政府が有する需要の予測能力に関する前提から生じていることが分かった.すなわち,日本では政府が事業の需要を予測した上で事業の実施判断を行い,需要リスクを政府が負担する.一方では,フィリピンでは民間事業者が行う需要予測に基づいて事業の実施条件が決定し,民間事業者が需要リスクを負担する.一方で民間事業者の需要予測は入札条件の前提となる.民間事業者が需要リスクを負担するとき,応札者は自らの入札を有利にするために需要を過大に見積もり,想定した需要が顕在化しなかった場合には事後的な再交渉を通じて料金変更や政府による追加的補助を引き出すといった戦略的行動に繋がる可能性が指摘されている.以上の民間事業者の戦略的行動をゲーム理論的枠組みに基づきモデル化を行った結果,総合評価落札方式の導入により戦略的行動を抑制できることを指摘した.平成30年度に実施した研究から,実際のPPP事業において民間事業者に対する流動性供給のメカニズムが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,PPP事業におけるリスク分担に関する実態を明らかにすることであった.平成30年度末の段階で,日本におけるPPP事業のリスク分担に関する実態の整理,またフィリピンにおけるPPP事業のリスク分担の実態にかかる資料収集と整理を行った上で,PPP事業では需要リスクの負担が民間事業者の流動性の調達戦略に大きな影響を与えている示唆を得ている.また,こうした示唆を理論モデルとして定式化しており,当初の目的は十分に達成されている.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度以降は,平成30年度の研究から得られたPPP事業におけるリスク分担の実態に基づいて,研究計画で示した課題B「リスク負担に伴う最適予備費及び予備費確保に伴う費用の計測手法の確立」と課題C「流動性供給の役割分担を考慮したPPP 事業における最適リスク分担の考え方の確立」に取り組む.特に,平成31年度は,課題Bに重点的に取り組む.具体的には,得られたリスク分担の実態を考慮し,企業財務の視点からHolmstrom and Tiroleの流動性需要モデルを拡張することにより,PPP事業における民間事業者の予備費の確保戦略についての分析を行う.また,実際のデータを用いた予備費計測手法確立のための予備的検討を行う.課題Cは,定性的な規範的分析であり,課題Bで得られたPPP事業の民間事業者の予備費確保行動モデルをさらに拡張し,望ましいリスク分担についての考察を行う.なお,平成30年度中にアジア開発銀行のPPPにかかる実務者,研究者とも議論を重ね,新たに研究協力を取り付けた.アジア開発銀行は開発途上国のPPP事業における鍵となる流動性供給主体であり,経験的データも有している.実証的な評価手法の確立のためには,データが不可欠であり,本研究の推進体制の強化につなげることができる.
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