研究課題
本研究課題は,Holmstrom and Tirole(以下,HT)によって提唱された流動性需給理論(以下,HT理論)に基づき,PPP事業における適切なリスク分担に関する考え方の確立を目的としている.「課題D:日本及びフィリピンにおけるPPP 事業のリスク分担のあり方への提言」に取り組んだ.最終年度では,1年目と2年目の知見を総括し,PPP事業のリスク分担のあり方に関する提言として取りまとめた.具体的には,1年目にフィリピンのPPP事業では,日本と異なり民間事業者が需要リスクを負担することが一般的であるという事実に関して,その背後にある要因を分析するため,公共サービス供給であるPPP事業のガバナンス枠組みを構築し,PPP事業において政府の流動性供給能力がリスク分担を決定づける要因となりうることを指摘した.その上で,以下のような骨子の提言を取りまとめた.1) 公共サービス供給の国民に対する責任は,PPP事業であっても最終的には政府にある.したがって,民間事業者による破綻や債務不履行等によって生じるサービス供給上の問題の責任は,PPP方式を適用して事業を実施した政府が負うべきである.2) PPP事業の需要リスクの分担は,PPP事業の安定性に重要な影響を及ぼす要因であり,民間事業者によるリスク負担によって,事業が財務的困難に陥る可能性が高くなる.3) PPP方式の適用は,政府による財務支出軽減を目的にするのではなく,競争性と建設と運営の一体化によって生じる民間事業の裁量拡大を通じた効率性向上が可能かどうかを基準に判断するべきである.4) 途上国政府による流動性供給能力は先進国と比較して小さい.そのため,需要リスクを民間事業者にシフトする傾向にある.民間事業者への過度な需要リスクの移転が生じないよに,国際金融機関は途上国政府の流動性供給能力を支援する必要がある.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
IEEE Transactions on Engineering Management
巻: Early Access ページ: 1-19
10.1109/TEM.2019.2938261