これまでの実験の結果より,コンクリートの作用圧縮応力と作用応力方向の超音波速度変化率は線形性を有することが確認され,コンクリートの応力推定に超音波速度変化率が適用できる可能性が示唆された。一方,導入した圧縮応力を減少させた場合,同一応力時の載荷時の超音波速度変化率と除荷時の超音波速度変化率は,弾性範囲内の比較的高い応力時では両者は同一の値を示したが,低い応力段階では載荷時と除荷時で異なる値を示し,除荷時は載荷時よりも低い超音波速度変化率となった。 ここで,載荷時と除荷時の挙動の違いを把握する目的で,粗骨材の有無に着目した実験を行った。すなわち,載荷時と除荷時の挙動の違いはコンクリートの不均一性が影響していると考え,不均一性の要因を粗骨材とし,同一水セメント比のコンクリート角柱供試体とモルタル角柱供試体にて圧縮応力と超音波速度変化率の関係を考察した。その結果,コンクリート供試体では,これまでの結果と同様に作用圧縮応力の増加に伴い超音波速度変化率は増加し,また,除荷時にはある応力段階から載荷時の超音波速度変化率よりも小さい値を示し,載荷時の超音波速度変化率-作用応力の傾きと除荷時の傾きが異なることを確認した。一方,モルタル供試体では,圧縮応力の増加に伴い超音波速度変化率は僅かに増加するものの,コンクリート供試体と比較してその増加は小さくなった。また,除荷時ではコンクリート供試体と同様に載荷時の傾きと除荷時の傾きが異なり,同一応力時の載荷および除荷時の超音波速度変化率は同一とならなかったが,その差はコンクリート供試体よりも小さいことが確認された。 以上の結果より,コンクリート供試体では粗骨材の存在により遷移帯量がモルタル供試体よりも多くなり,圧縮応力を受けることで供試体内部の組織変化が大きくなり,完全弾性体に近いほど載荷時と除荷時の超音波速度変化率の差は小さくなると示唆された。
|