最終年度においては,最高温度1100℃で30分間加熱したPC桁の疲労試験,ならびに加熱した桁を鋼板で補強した供試体の静的試験と疲労試験を実施した。 加熱後の補強を行わない供試体の疲労試験においては,繰返し載荷時の残留変形が加熱しない供試体と比較して大きく,繰返し回数の増加とともに大きくなる傾向を示した。また,疲労試験終了後の残存静的耐力も静的載荷試験結果と同様に,加熱しない供試体の80%程度まで低下した。一方,加熱後補強を実施した供試体においては,静的耐力(疲労試験後の静的耐力含む)は十分に回復し,疲労試験時の残留変位の増加も十分に抑制されたことから,火災により表層コンクリートが広範囲に爆裂・はく落した状況であっても,適切な断面修復と鋼板接着補強を行うことにより,継続的な使用が可能であることが確認された。 本研究では,最高温度700℃の加熱による影響は耐荷力やひび割れの進展状況の観点からみると大きなものではなかった。しかし,底面のコンクリートが爆裂していることから断面修復や,脆弱部コンクリートのはく落防止などの措置は必要であると考える。一方,最高温度が1100℃の加熱による影響は著しいが,補強による最大耐力の回復とひび割れや変形の進行の抑制効果も確認できた。さらに,PC鋼材の受熱温度からプレストレス,付着力およびPC鋼材の強度低下を推定し,それらを考慮することにより火災被災後のPC桁の残存耐荷力についても安全側に評価できることが明らかとなった。今後の課題として,爆裂の影響範囲を実験により明確にすること,爆裂の影響を考慮した熱伝導解析を行いPC鋼材の受熱温度の推定の精度を高めていくことが必要であると考える。
|