研究課題/領域番号 |
17K06523
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研究機関 | 木更津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
青木 優介 木更津工業高等専門学校, 環境都市工学科, 教授 (70360328)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 塩害 / 鋼材腐食発生限界塩化物イオン濃度 / 既設構造物 / 鉄粉散布法 |
研究実績の概要 |
本研究は,既設コンクリート構造物における塩害の進展予測の精度向上に資せるよう,既設コンクリート中の鋼材腐食発生限界塩化物イオン濃度(以下,限界濃度と称する)を測定する方法の確立を目的としている。研究代表者は,上記の測定方法として,塩化物イオンの浸透を受けた硬化コンクリートの断面に鉄粉を散布し,その発錆状況をもとに限界濃度を測定しようとする「鉄粉散布法」なる独自の方法を考案してきた。そして,同方法の確実性および即時性を向上させた「改良版・鉄粉散布法」の考案につなげてきた。本研究の最終目標は,この「改良版・鉄粉散布法」の実用性を検証することにある。 実用性の検証のためには,「実験室レベルでの検証」⇒「実構造物レベルでの検証」と順を追うことが妥当であると考えた。そのため,初年度である平成29年度は,実験室レベルでの検証を優先させた。具体的には,(土木学会コンクリート標準示方書設計編に示されている限界濃度の根拠にもなった)堀口氏らの実験にならい,塩化物イオンの浸透を受けるモルタル供試体中の鉄筋の腐食開始時点の特定実験を実施した。そして,腐食開始が認められた直後に同供試体に対して改良版・鉄粉散布法を実施し,鉄粉の発錆状況と鉄筋表面の位置関係を確認することにした。すなわち,供試体の断面に鉄粉を散布して,それが発錆する境界が鉄筋表面の位置に達していれば,「鉄粉の発錆境界=鉄筋の腐食開始」であることを実証できると考えたのである。 現在,水セメント比を45%,55%,65%と設定したモルタル供試体で実験を進めているが,同65%の供試体ではすでに結果が得られ,概ね想定どおり,つまり,「鉄粉の発錆境界=鉄筋の腐食開始」といえる結果が得られている。今後,同55%,45%の供試体での結果も確認し,「実験室レベルでの検証」に区切りをつけたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,やや遅れている部分について述べる。予定では,平成29年度中に「実験室レベルでの検証」を終えるはずであったが,実験結果の取得に時間がかかっている。具体的には,水セメント比45%,55%の供試体では,塩化物イオンの浸透が予想していたよりも遅く,いまだ鉄筋の腐食開始が認められていない状況である。ただし,これを無理やり早めようとすることは,実験と現実との乖離を大きくし,実験結果の価値を落としてしまうので,ここはねばり強く待つしかないと考えている。 一方,やや進めている部分について述べる。今後,同方法の実構造物レベルでの検証を進めていくためには,必ず,鉄粉の発錆境界における塩化物イオン濃度の測定結果を出さなければならなくなることが予想されている。しかし,従来の「供試体スライス+粉砕+化学分析」では,それを正確に測定できないと考えている。正確に測定するためには,EPMAにより供試体断面の塩化物イオン濃度を面的に測定する必要があると考えている。しかし,EPMAでの測定には(専門機関に依頼することになるが),大きな費用と時間が必要となる。今後の研究の進展や本方法の実用の場面を考えれば,これに代替できる「塩化物イオン濃度の面的測定方法」を確立しておく必要がある。これだけでも大きな研究テーマになりそうだが,その可能性をもつ方法は既にある。それが,代表者が長年研究してきた硝酸銀溶液を用いる方法である。同方法については不明確な部分も多いが,平成29年度の研究でブレイクスルーとなりそうな結果が得られた。今後,これについても研究を進展させ,改良版・鉄粉散布法の実構造物レベルでの検証に活用したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず,現在進めている改良版・鉄粉散布法の実験室レベルでの検証を継続する。具体的には,モルタル中に埋め込んだ鉄筋の腐食開始時点の特定とその直後での改良版・鉄粉散布法の実施実験について,水セメント比45%,55%供試体での結果を得る。さらに,現実のコンクリート構造物を想定すると,高炉セメントやフライアッシュセメントを用いた供試体においても,同様の結果を得ておく必要があると考えられる。ただ,これらについてはさらに塩化物イオンの浸透に時間がかかる可能性が高く,その意味でも,この試験方法の迅速化について検討を進めていきたいと考えている。 一方,硝酸銀溶液を用いた塩化物イオン濃度の面的測定についても併行して研究を進める。具体的には,比較的低濃度の硝酸銀溶液を連続的にコンクリート断面に与えつつ,断面上に現れる呈色境界の移り変わりを記録していく方法について検討を進める。上記の実験ともあわせて,次年度以降の「実構造物レベルでの検証」への着実なステップとしたい。 なお,これらの検討で得られた結果については,順次,論文等によって広く社会に公表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,実験結果が得られる時期がずれこみ,その測定試験のための費用が繰り越されたためである。すでに実験は実施されており,今年度中には結果が得られる見込みであるので,繰り越した額については,その測定試験のための費用に充てる予定である。
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