研究課題/領域番号 |
17K06529
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
阿部 和久 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40175899)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | レール軸力推定 / 慣性正矢法 / 軌道検測 |
研究実績の概要 |
平成29年度に導出したレール軸力推定式では,レールたわみをEulerばりで表し,道床から作用する拘束力(道床横抵抗力)をレールに沿って連続的に分布する線形バネで近似した.これらの近似が軸力推定に及ぼす影響を調べるために,精緻な数値軌道モデルを構築した.具体的には,レールたわみにせん断変形の影響を考慮したTimoshenkoばりモデルを採用し,拘束力をまくらぎ離散支持モデルで表現した.さらに,道床横抵抗力に非弾性履歴特性を加味した. 以上のモデル化の下,軸力作用に伴う軌道通り変位(横たわみ)の擬似測定データを,数値シミュレーション結果にノイズを付加して作成し,軸力推定法を適用した.その結果,Eulerばりによるレールたわみ近似や,連続バネによる道床横抵抗力の近似などは,軸力の推定結果に影響しないことがわかった.さらに,道床横抵抗力に空間的バラツキを設定したが,平均値の1/2程度の変動幅であれば,如何なる波長の変動成分であっても推定結果には影響しないことがわかった. なお,道床横抵抗力における非弾性特性についてのみ,軸力推定で用いる通り変位に関するスペクトル比を下方へ平行移動させる効果が認められた.ただし,スペクトル比の切片の値は軸力推定では用いないため,結果には影響を及ぼさないことがわかった. 続いて,気温と日射によるレール温度変化をシミュレートし,これによる日夜の軸力変動と,それに伴う通り変位の変化の再現解析を実施した.これにより,レール設定時(敷設時)からの長期間にわたる軌道変形履歴を求め,得られた擬似測定データより軸力推定を試みた.その結果,本推定で必要となる測定のうち,2回目を最も軌道座屈の危険性が高まる真夏の正午過ぎに設定した場合,当該時刻の作用軸力が比較的精度良く推定できることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ当初計画のとおり,レール軸力推定式の導出の際に用いた簡易軌道モデルと,実軌道が有する様々な条件との乖離が,レール軸力の推定結果に及ぼす影響について明らかにすることができた. さらに,その結果,一年間のうち最もレール軸力が大きくなり座屈の危険性が増す真夏の正午過ぎにおける軸力が,本推定法により比較的精度良く推定可能であることがわかった.このことは,レール軸力の把握が最も必要とされる状況下において,本手法が有効に機能することを示唆する結果であり,本年度に得た最大の成果である. なお,当初計画では,鉄道事業者の協力の下,軌道通り変位測定区間を対象に,レール軸力の相対変動を連続測定し,さらに,まくらぎの引き抜き試験より道床横抵抗力を測定する予定としていた.しかし,本測定に適う線区の選定が困難とのことで,測定は実現できていない.そのため,現在は過去の測定データなど,入手可能なデータの提供について,検討を依頼中である. 以上のとおり,実測データについては現場の制約などもあり,必ずしも順調に進捗してはいないが,研究の中心となる精緻な軌道モデルに基づく軸力推定法の適用可能性に関する検討自体は,当初の想定以上の成果を得ることができた.よって,平成30年度についてはおおむね当初計画どおり順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
列車に搭載した検測装置による通り変位測定では,10m弦正矢と呼ばれるデータに変換したものが出力される.計画当初では,当該データから通り変位データを復元する手法を検討して,そこから道床横抵抗力を求める手法の構築を予定していた. しかし,これまでの研究により,軸力推定に用いるレール通り変位データには,S/N比の比較的大きな波数範囲である1~2(1/m)のものを使用することが適切であるとの結論を得た.なお,10m弦正矢データでは1.25(1/m)前後の波数成分が欠落するため,当該測定データから1~2(1/m)の波数範囲の通り変位データを復元することはできない.そのため,平成29年度には,検測装置より通り変位データを直接抽出する場合を前提に検討を行った. なお,平成30年度に行った研究により,軌道の様々な条件がレール軸力推定に及ぼす影響を明らかにすることができた.その際にはレール軸力を軌道長手方向に一定と仮定していた.しかし,実際には日陰・日向の各区間で軸力が大きく変動することが過去の研究で確認されており,その様な条件下での推定可能性についても検討する必要がある.その他,レール種別(50kgNと60kgレール)を始め,通り変位の測定区間長や,初期通り変位の大きさや波形(標準偏差や距離相関)などが推定精度に及ぼす影響などが,未検討事項となっている. そこで,最終年度となる本年度は,レール軸力推定法の実用化において重要と考えられるこれらの未確認事項について,数値実験を通してさらなる検討を行う.また,同様に道床横抵抗力推定への影響についても調べる.加えて,鉄道事業者が保有する軌道検測データを提供いただき,それを対象とした本推定法の適用可能性について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度使用額自体は当初予定と概ね同額となっている.ただし,平成29年度に残額を生じたため,結果的にそれとほぼ等しい額が次年度使用となっている.なお,次年度に生じた使用額は比較的小額であり,概ね計画どおり使用できていると考えている.本年度は,当該額を含め計画に沿った使用に努める.
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