高強度鋼は切欠き感度が高いために,応力集中が起こる溶接部の疲労強度の確保が重要な課題である.本研究はこの課題の達成を目的とするもので高強度鋼の“素材疲労強度”を合理的に加味した疲労強度向上法の提示を目的とする.これまでに研究成果を基に,最終年度の令和元年度の成果を以下に示す.疲労試験および走査型顕微鏡を用いた疲労破壊の起点となった初期欠陥寸法(area)の正確な同定を行い,√areaパラメータモデルを用いてSBHS500及び700の素材疲労強度を定量的に評価可能である事実を証明した.我が国の疲労設計コードに規定される部材表面の品質管理値が最大表面粗さ50μm以下であることを利用し,√areaパラメータモデルを用いて素材疲労強度の下限値を提案した.提案した高強度鋼の素材疲労強度をHFMI処理された疲労強度評価手法に反映し,現行の疲労設計コードで規定される素材疲労強度を考慮した場合と比較して,HFMI溶接継手の疲労試験データに対する評価精度を著しく向上させた.欧州構造基準の疲労強度区分の規定に用いられたバックグランドデータを含む国際的な既往のデータベースに我が国の研究を中心とした近年の疲労試験結果を統合し,1958年から2019年までのデータを網羅した全世界型かつ最新の疲労試験データベースを構築した.それに対して,寸法効果を検討するための幅広い継手サイズの標本を重複・不適・エラーデータに注視しながら収集・スクリーニングした上で,ダミー変数を導入した重回帰分析を行った.付加板長さ,板厚,主板幅の全ての寸法効果を考慮する疲労強度を,高度に予測可能な関係式を定式化した.主板幅を含む関係式から算出された新たな溶接まま継手の疲労設計曲線を利用することにより,HFMI溶接継手の疲労試験データの下限値に相当する95%非破壊確率曲線に対するHFMI処理のIIW疲労強度評価法の精度を向上させた.
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