研究課題
本研究では,不飽和粘土の水分量と密度を,超音波計測結果から推定する上での基盤となるデータの収集と超音波計測技術の開発を行ったものである.研究初年度と二年目には,乾燥密度と水分量が異なる不飽和粘土試料を用い,約500の超音波波形を取得して弾性波速度と水分・密度の関係を調べた.超音波波形の計測は,試料の厚みおよび幅方向,縦波と横波のそれぞれについて行い,弾性波速度だけでなく,異方性と縦波-横波速度比(音速比)のデータも取得した.研究年度二年目の後半からは,弾性波速度の変化を詳しく調べるために,乾燥密度-含水比平面において弾性波速度を与える回帰曲面を計測結果から作成した.その結果,弾性波速度は乾燥密度と高い相関があり,含水比にはあまり影響を受けないことが分かった.一方,音速比は,飽和度と正の相関がみられることが示された.以上により,超音波計測結果から,不飽和粘土の水分量と密度の推定が可能であることが分かった.さらに,研究最終年度(3年目)には,試料表面を伝播する波動場を可視化するために,レーザー超音波スキャンニングシステムを構築し,不飽和粘土中を透過する表面波の伝播挙動を調べた.この実験では,水分と密度が均一な試料に加え,両者が場所によって異なる不均質試料も用いて表面波伝播状況を可視化し,試料部位による弾性波速度の違いを明瞭に捉えることが可能であることを示した.このことは,非接触かつ表面での超音波計測で,密度や水分量の不均一性を評価できることを示している.以上の成果を踏まえ,今後,実体波(縦波,横波)速度と,表面波速度の粘弾性理論に基づく関係を構築すれば,不飽和粘土の水分-密度評価のための超音波スペクトロスコピー技術を確立することができる.今回得られた研究成果は,そのキーとなる音速データベースと超音波計測技術を構築したものと位置付けられる.
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土木学会論文集A2(応用力学)
巻: 75(2) ページ: I_113-I_124,
https://doi.org/10.2208/jscejam.75.2_I_113