研究課題/領域番号 |
17K06535
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田中 俊幸 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (50202172)
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研究分担者 |
森山 敏文 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (20452873)
藤本 孝文 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (40264204)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フレッシュコンクリート / 成分比推定 / 比誘電率測定 / 電磁波レーダー / 鉄筋探査 / アレイアンテナ |
研究実績の概要 |
4組のマイクロストリップアンテナを利用したフレッシュコンクリートの診断容器を用いて標準配合比(水:セメント:細骨材=1:2:6)だけでなく水分量を3.125%,5%,10%,15%,20%,30%,50%と増量し,電磁波の応答を観測した.水分量の増加によって受信強度が変化することを確認した.また,フレッシュコンクリートを容器に投入後3分程度まで大きく受信強度が変化するが,その後は受信強度の時間変化は非常に緩やかになることを明らかにした.診断容器の上部と下部で異なる時間変化をすることが分かったので,今後は実験を重ねて,水分推定の精度を向上させる予定である.また,今回の診断容器は,容器の強度確保のために診断部分の幅(伝搬距離)が目標値と比べて2/3程度に狭くなってしまった.このためフレッシュコンクリートの量が少なくなり,水分増加の影響が予想よりも小さくなった.2019年度は診断容器を作り直して実験する予定である.比誘電率分布測定においては,ダイポールアンテナや同軸プローブの埋め込み方を検討した.撹拌が十分に行われていない場合には,アンテナやプローブの近傍に多くの2mmから3mmの空洞が存在することを明らかにした.また振動棒によって撹拌すると空洞は少なくなるが,アンテナやプローブに少しでも接触すると曲がってしまい,測定ができなくなることが分かった.さらに,コンクリートミキサーを使用して打設前のコンクリートを十分に混ぜた結果,コンクリートの比誘電率分布のばらつきが少なくなることを明らかにした.今回はアンテナの埋め込み深さを3種類しか作成せずに,試験体の作成について重点的に議論した.2019年度は埋め込み深さを増やして,正確な比誘電率分布を求める予定である.コンクリートの比誘電率分布の近似式を求いた高精度の鉄筋探査アルゴリズムは現在検討中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生コン配合比検査に関しては4組の4素子マイクロストリップアンテナを利用した水分移動診断システムを用いて水分の配合比が異なる生コンに対する電磁波伝搬実験を行った.標準配合比に対して水の量を3.125,5,10,15,20,30,50%と多くした.水の量が多い場合,診断容器の上部と下部で電磁波伝搬強度の時間変化の仕方が異なることが確認できた.しかし,実験途中で診断容器が破損したため,生コン容器と診断部分を分離できるように改良した.しかしながら厚さ1cmの容器を用いたため生コンを入れる部分の幅が狭くなったので,水の増加に対する受信電磁波の大きさの減衰は期待した値よりも小さくなった.これより,診断部分の改良が必要となった. コンクリートの比誘電率分布の測定では,測定結果のばらつきが打設時の撹拌不足による直径2mm~3mmの空洞の存在であることを突き止めた.改善策として,打設前のコンクリートミキサーによる十分な撹拌,打設後に振動棒と木槌による十分な空気抜きを行った.その結果,従来よりも比誘電率のばらつきが少なくなった.また,試験体の比誘電率を1台のネットアナで測定しているため,プローブやアンテナへのケーブルの付替えが必要であった.付替え作業もばらつきの原因であると考えた.そこで,マイクロ波スイッチを使用して,物理的なケーブルの付替えを無くすと,測定結果のばらつきが少なくなった.この研究に関しては,精度の良い測定方法への改良点が明らかになったため,進展したと考える. 高精度鉄筋探査に関しては,コンクリートの損失によってパルス幅が拡大することを明らかにし,その補正方法を提案した.限定的ではあるが,パルス幅の補正を行うことで鉄筋の半径を精度よく推定できることを明らかにした.この研究に対しては,予定通りの進行である. したがって,全体的にはおおむね順調に研究成果が得られていると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
生コン診断に関しては制作した生コン容器の厚さが8cmになるように作成する.それに伴って診断部分の大きさも改良が必要となる.装置の改良後に水分配合比を変えた生コンに対して多くの伝搬実験を行い,水分比と電磁波伝搬の関係の基礎データを得る.さらに,上下の電磁波伝搬速度あるいは振幅の違いから生コン内の水分割合を推定する関係式を導出する. コンクリートの比誘電率分布測定に関してはH30年度に明らかにした手順に従って試験体を作成する.今までは3つのアンテナを同じ深さに埋め込み,2つの伝搬経路によって1つの深さの比誘電率を推定していた.しかし,斜め方向に埋め込まれた深さが異なるアンテナを使用しても電波を受信できることを確認したため,クロス計測できるようなアンテナの配置を考え,より多くの埋め込み深さで比誘電率が測定できるような試験体を作成する.また,試験体に鉄筋探査とアンテナおよびプローブを埋め込み,コンクリートレーダによる比誘電率の推定とアンテナあるいはおよびプローブによる比誘電率の推定結果を比較し,互いの推定方法を検証する. 鉄筋探査の高精度化に関しては,損失によるパルス幅拡大の補正方法を提案し,探査アルゴリズムにパルス幅の補正式を導入して鉄筋径の推定精度向上を目指す.また,半径が異なる鉄筋の試験体を作成し,推定精度を確認する.
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次年度使用額が生じた理由 |
比誘電率のモニタリングに使用していたネットワークアナライザが故障し,連続的なモニタリングができなくなったため,新たな試験体を作成する必要が生じた.さらに,3Dプリンタが故障してコンクリート中に埋め込むアンテナストッパーを作成できず,コンクリート試験体を作ることができなかった.また,フレッシュコンクリート診断容器の改良が必要であることが明らかになった.これらのため,一部の実験において当初の結果を得ることができなかった.これらのことが2019年度に研究費を使用する必要となった理由である. 繰り越した金額は主に故障した3Dプリンタの修理,フレッシュコンクリート診断容器の作成に使用予定である.新たな診断容器を作成するためには基板加工機が必要となるが,現在所有している基板加工機は一部破損しており修理が不可能のため,中古の基板加工機あるいは安価な基板加工機を探している.以上のように3Dプリンタの修理,基板加工機の購入,フレッシュコンクリートの診断容器の作成を繰り越し金額と今年度の予算を用いて行う予定である.
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