研究課題/領域番号 |
17K06535
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田中 俊幸 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (50202172)
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研究分担者 |
森山 敏文 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (20452873)
藤本 孝文 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (40264204)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コンクリート診断 / 鉄筋探査 / 比誘電率分布測定 / 生コンの成分推定 / 電磁波レーダ |
研究実績の概要 |
1.生コンの成分推定:2018年度において,4組のマイクロストリップアンテナで水分の浸透の様子を測定することに成功した.2019年度は前年の課題であった生コン挿入部分の拡張を図るために,診断システム全体の構成を一新した.デモを行い,新診断システムは正しく動作することを確認した.さらに,これまではVNAの伝搬係数であるS21だけを測定して評価を行っていたが,反射係数であるS11を測定し,水分量評価の精度を上げることに取り組んだ.2020年度は生コンの診断を行う予定である. 2.比誘電率分布の測定:試験体を作成する際の不均質分布をなくすために,比誘電率測定用の同軸プローブやダイポールアンテナの挿入数を少なくして,十分な攪拌領域を確保した.その結果,比誘電率のばらつきが少なくなった.また,ダイポールアンテナによるS21測定では従来は水平方向のみを利用していたが,斜め方向の伝搬に対しても利用できることを確かめた.これによって少ない埋め込み数で多くの深さの比誘電率を測定できるようになる.さらに,鉄筋と同軸プローブおよびダイポールアンテナを同時に埋め込む試験体を作成した.これにより当研究室で開発した鉄筋からの反射波を利用した比誘電率推定方法と,プローブなどによる直接探査法の結果の比較を行った.しかし,試験体に埋め込んだプローブやアンテナが型枠を外すときに曲がってしまい,測定精度が悪くなった.この試験体自体の作為性精度を向上させる必要がある. 3.高精度鉄筋探査:コンクリートの導電率によりパルス幅が伝搬とともに広がることを数値シミュレーションにより明らかにした.これにより,開発中の高精度鉄筋探査アルゴリズムの誤差の原因が分かった.パルスの広がりを考慮したアルゴリズムの作成,あるいはパルスの広がりの補正方法の検討が重要な課題である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.研究代表者が5月,6月,10月,11月に計1月程度入院し,研究が全体的に進まなかったことが最も大きな理由である.したがって1年期間延長し当初の予定まで研究を継続することにした. 2.生コンの成分推定:2018年度の課題を解決するために新たな診断装置を作成した.診断装置が正しく動作することを確認することができたが,生コンの成分推定をするには至らなかった.しかし,成分推定の精度を上げるための反射係数の利用について考察した.高さ方向に3つのアンテナアレイを配置し,乾燥砂に上から水を注ぎ,水の時間的な移動をモニタリングすることに成功した.さらに鉛直方向のアンテナ対による電波伝搬によっても,水分移動を観測することに成功した.したがって今後は横方向と縦方向のアンテナ伝搬をどちらも利用して,水分量の推定を行う予定である.このように新たな知見を見出したので,やや遅れていると判断した. 3.比誘電率分布の測定:同軸プローブやダイポールアンテナの挿入本数を少なくすることで,コンクリートの比誘電率分布の測定精度を向上させることに成功した.しかし,挿入本数が少ないために深さ方向の測定箇所が少なくなった.これを解決するために斜め方向のアンテナ伝搬を利用することを考えた.所有している試験体に対して斜め伝搬を測定し,比誘電率を推定できることを明らかにした.そこで,斜め伝搬を測定できる試験体を設計して作成した.しかしながら,セメントの不具合により試験体の作成に失敗した.完成した試験体は風化したコンクリートのようであり,比誘電率もばらつきが非常に大きかった.新しい推定データの取得方法を見出したが,試験体の作成に失敗したため,やや遅れていると判断した. 4.高精度鉄筋探査:鉄筋探査アルゴリズムの誤差の原因を突き止めた.今後の改善点を明らかにしたので,順調に進んでいると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
1.生コンの成分推定:作成した新たな診断システムを用いて生コンの成分比推定を行う.ベクトルネットワークアナライザのS21とS11を測定し,成分比推定の精度向上を目指す.時間波形に逆フーリエ変換し,時間遅れから比誘電率を推定し,比誘電率と成分比の関係を導出する. 2.比誘電率分布の測定:ダイポールアンテナの斜め伝搬を利用した試験体を設計し,作成する.なお,深さが異なるダイポール間の伝搬経路は,表面からの深さが一定ではないことに注意する.すなわち斜め伝搬では伝搬経路内状のコンクリートの平均の比誘電率が得られることになる.深さ方向による比誘電率の変化は直線的(深さを変数とした1次関数)ではないため,厳密には送信アンテナの深さと受信アンテナの深さの平均値ではない.しかし,第1近似として深さが異なるアンテナ間の伝搬により得られる比誘電率の値は,平均の深さの値とみなす.斜め伝搬の利用によりこれまでは4本一組のアンテナで1つの深さの比誘電率を測定していたが,異なる深さに4本のアンテナを埋め込むことにより,6つの伝搬経路で比誘電率を推定できるようになるため,大幅に探査精度が改善できる可能性を持つ. 3.高精度鉄筋探査:コンクリートの導電率の存在によってパルス幅は広がることを確認したので,パルス幅の広がりと伝搬距離の関係を明らかにする.この関係によって鉄筋探査アルゴリズムを補正し,正確な鉄筋径を推定する. 4.ハイブリッド試験体による測定結果の保証:鉄筋と比誘電率測定プローブやアンテナを1つの試験体に配置し,同じ試験体の比誘電率を異なる手法で測定して,比較検討する.これにより非破壊で調べることのできない各手法による比誘電率の測定結果の保証となる.なお,高精度鉄筋探査アルゴリズムは鉄筋径,鉄筋の位置とコンクリートの比誘電率を同時に推定する手法である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は5月,6月,10月,11月にかけて体調を崩し入院したため,予定している研究ができなかった.そこで1年間研究を延長することに決めた.したがって,次年度に実施する実験や研究発表において必要な経費分を次年度使用とした. 研究費は試験体の材料費や製作費,測定装置の改良費,学会発表費に使用する予定である.
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