研究課題/領域番号 |
17K06539
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
齊藤 準平 日本大学, 理工学部, 准教授 (20349955)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プレストレス / ひび割れ / 塩分浸透抵抗性 / 電気泳動法 / 実効拡散係数 |
研究実績の概要 |
本研究は,PRC構造に混在する複雑な優劣相反因子(ひび割れ幅の拡大制限(優位因子),プレストレス付与による部材の損傷(劣位因子))が複合的に作用した時の塩分浸透特性を明らかにすることを目的に推進してきた。しかし,平成30年度の研究から,プレストレスの大きさが圧縮強度の40%以下では,プレストレスの導入は塩分浸透抵抗性を向上させ,部材の損傷(劣位因子)ではなく緻密化(優位因子)させていることがわかった。 令和元年度に着手した研究は,当初の計画通り「各因子(ひび割れ,プレストレス付与)の複合作用が塩分浸透特性へ及ぼす影響を明らかにする研究」としたが,プレストレスは,ひび割れ幅の拡大制限(優位因子)(平成29年度の研究)と,コンクリートの緻密化(優位因子)(平成30年度の研究)を示すことがわかったため,それらのいずれかが塩分浸透抵抗性に,より効果があるかを明らかにすることを目的として研究を行った。 実験条件として,プレストレスの影響は,影響なし(type N),プレストレスの繰り返し付与後にプレストレスを開放した条件(type A),新たに実際の挙動に一致する,プレストレスの繰り返し付与後にプレストレス導入した条件(type AP)を加えた。ひび割れとプレストレスの複合作用の影響は,実際の挙動に一致する,プレストレスの繰り返し付与後にプレストレスを開放したコンクリートに0.1mmのひび割れがある条件(type ACr)と,0.1mmのひび割れのみの条件(type Cr)とした。 実験結果として,プレストレスの影響では平成30年度の研究結果に加えて新たに,プレストレスの繰り返し付与後にプレストレスが導入されると塩分浸透抵抗性がより向上することがわかった。また,プレストレス付与によるコンクリートの緻密化よりもひび割れの閉塞の方が塩分浸透抵抗性により効果があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画は,平成29~30年度は(1)「ひび割れが塩分浸透特性に及ぼす影響を明らかにする研究」,平成30~令和元年度は(2)「プレストレス付与が塩分浸透特性に及ぼす影響を明らかにする研究」,令和元年度~2年度は(3)「各因子(ひび割れ,プレストレス付与)の複合作用が塩分浸透特性へ及ぼす影響を明らかにする研究」と「研究結果の取りまとめ」を推進することを予定し,それに基づき実施している。 平成29年度の実績として,(1)「ひび割れが塩分浸透特性に及ぼす影響を明らかにする研究」を研究計画どおりに全実験条件にて実施し,良好な成果が得られた。加えて,(2)「プレストレス付与が塩分浸透特性に及ぼす影響を明らかにする研究」に関して,主要な実験条件にて先行実験を実施し,妥当な結果が得られた。 平成30年度の実績として,(2)「プレストレス付与が塩分浸透特性に及ぼす影響を明らかにする研究」に関して,当初の研究計画と平成29年度の先行実験結果を踏まえ,さらに研究の進展が見込める条件を追加して実験を実施し,当初の研究計画を上回る十分な実験条件と有益な研究成果が得られた。 令和元年度の実績として,(3)「各因子(ひび割れ,プレストレス付与)の複合作用が塩分浸透特性へ及ぼす影響を明らかにする研究」に関して,(1)(平成29年度の実績)と(2)(平成30年度の実績)の結果から,実際の挙動に一致する条件を選定し実験を実施した。その結果,当初の研究計画では見込めなかった有益な研究成果が得られた。 このように,当初の研究計画よりも前倒しで研究を進められた結果,令和2年度は予定した実験が全て遂げられているため,これまでの研究の取りまとめを当初の計画よりも長い1年間の期間において行うことができる見通しが立っている。以上より,現在の進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,当該研究の最終年度であり,当初の研究計画より前倒しでこれまでの研究結果((1)(平成29年度の実績),(2)(平成30年度の実績),(3)(令和元年度の実績))の総合的な取りまとめを推進する予定である。 本研究の目的は,PRC構造に混在する複雑な優劣相反因子(ひび割れ幅の拡大制限(優位因子),プレストレス付与による部材の損傷(劣位因子))が複合的に作用した時の塩分浸透特性を明らかにすることであったが,当初,部材材料に不利に働くと想定していたプレストレスの付与が実際に使用される程度のプレストレスでは部材が緻密になり塩分浸透抵抗性に優位に働くという利点であったことがわかったことは,今後のPRC構造の橋梁への適用の面で大いに役に立つ有益な結果である。そこで,取りまとめに際しては,検討内容に応じて,本研究で用いている電気泳動法の実験結果だけでなく,研究代表者が別途行っている塩水浸せき法による実験結果も考慮して,それら両実験で得られた拡散係数と各影響因子の関係を総合的に整理し,ひび割れとプレストレス付与の作用が塩分浸透抵抗性に及ぼす影響を検討する予定である。
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