研究課題/領域番号 |
17K06545
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
沖中 知雄 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90298985)
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研究分担者 |
Maddegedar a.L. 東京大学, 地震研究所, 准教授 (20426290)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | き裂分岐 / 画像計測 / 超高速ビデオカメラ |
研究実績の概要 |
本研究は高時間分解能・高空間分解能な画像計測を利用し,き裂分岐のメカニズムの詳細に検討することを目的とする.そのため透明脆性材料であるエポキシ樹脂を用いて短辺中央部に長さ10mmの初期き裂をもつ120mm×140mm×1mmの薄板矩形供試体を作成した.作成された供試体に引張荷重を載荷し,初期き裂から進展するき裂の分岐点前後でのき裂先端部の挙動を超高速ビデオカメラを用いて画像計測した.画像計測の空間解像度は0.017mm/pixel,時間解像度は0.2μ秒/frameであり,高空間解像度,高時間分解能な画像計測を実現した. 実験結果の例として,引張荷重0.7kNで破断した供試体中でのき裂分岐を示す.破断後の供試体の観察では,初期き裂から進展を開始したき裂は供試体左端部から32mmの地点で上下に2分岐していた.下方向に進展したき裂は41.6mmの地点で再分岐し,最終的に3本の分岐き裂が供試体の破断に繋がった.一方,32mm地点近傍でのき裂先端部の挙動を画像計測した結果では,き裂は29.3mmの地点で最初の分岐を発生させ,分岐は3分岐であった.3本の分岐き裂は約0.035mmの間隔をもつ平行なき裂として進展を続けた後に約0.08mmの間隔をもつ2本の平行なき裂に収束した.2本のき裂は平行なまま進展を続け,32mm地点で進展方向を各々上下に変化させ,破断後の供試体で確認できる分岐き裂に成長した.き裂が進展方向を変化させた地点が破断後の供試体で確認できる分岐点である. この例で観察されたように,き裂の分岐は破断後の供試体で確認できる分岐点以前に発生しており,従来指摘されていた分岐の発生以前に微小な間隔を保って進展する平行き裂が発生することが分かった.このような微小な平行き裂が観察された例は報告されておらず,貴重な研究成果であるといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
判断の根拠を実験と解析の面から説明する: 実験では本年度に実施した画像計測から,破断後の供試体で確認できる分岐(マクロな分岐)以前にミクロな分岐が発生し,分岐したき裂は平行なき裂として進展を続けた後にマクロな分岐に成長することが明らかになった.この現象は既往の研究では報告された事例がない.本研究の特色である高時間分解能・高空間分解能な画像計測の適用により初めて明らかになった成果であり,本研究の目的の一つであるき裂分岐のメカニズムを明らかにする,という点では大きな成果を上げたものといえる.観察された微小な間隔をもつ平行き裂の性状についての検討が不十分であり来年度以降の課題であるといえるが,本年度迄の成果としては順調であると判断できる. 解析では本年度は予備解析として,き裂進展に適した解析手法であるPDS-FEM(Particle Discretization Scheme-FEM)手法を用いて準静的なき裂進展解析を行った.き裂進展解析に使用される破壊基準として,最大主応力,第1不変量,第2不変量を採用し,分岐後の分岐き裂の進展経路の再現に適した破壊基準を模索した.その結果,第1不変量を採用した解析結果が実験で観察されたき裂進展経路ともっともよく一致していることが明らかとなった.動的問題,3次元問題への拡張等の課題は残るが,現状ではおおむね順調であるといえる. 以上から,本研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として,実験では分岐き裂の3次元挙動の検証を目標とする.検証は本年度の研究で明らかになったミクロな分岐を対象とし,これらのミクロな分岐き裂が分岐直後に貫通亀裂として発生しているか,あるいはき裂線中央部もしくは表面近くで部分き裂として発生してその後に貫通亀裂として成長しているのかを実験的に検討する.このためにき裂面の斜め上方からき裂分岐を画像計測することを試みる.このために必要となるものは(1)十分に薄い引張試験用治具,(2)厚さ方向を満足する焦点深度をもつ計測システムの2つである.(1)の治具では現在の治具は厚さが32mmある.斜め上方から計測を試みても治具が観測軸に干渉して光源の照射もしくはカメラの計測を阻害するため,画像計測のための角度を十分には確保することができない.そのため次年度は薄い治具を作成し,画像計測のための角度を確保することを試みる.(2)では,現在の計測システムでの焦点深度は約2㎜である.実験に使用する供試体の厚さを2mm,計測角度を45°とした場合,必要な焦点深度は約3mmとなり,現在の焦点深度では計測領域を確保できない.そのため新たなレンズを導入し,必要な計測領域の確保を試みる. 数値解析では高次PDS-FEMを3次元に拡張し,3次元動的き裂進展解析に適用することを試みる.本年度に検証された破壊基準を導入し,分岐を含むき裂進展挙動の再現を目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究成果から,研究の完遂のためには分岐前後のき裂先端部の3次元挙動の計測が必要であることが判明した.き裂面斜め上方からのき裂分岐の3次元挙動を画像計測のためには光源,供試体,超高速度カメラをき裂面と角度をもつ観測軸上で直線に配置する必要がある.しかしながら現在使用している引張試験用治具では治具の厚みのため観測軸が治具と干渉し,十分な角度が確保できない.この問題を解決するため,次年度に改めて現在の治具より厚みの薄い引張試験用治具を作成することとなった.現在使用中の治具は荷重20kN,供試体厚さ10mmに対応するため治具自体の厚みが32㎜であるのに対し,新たな治具は荷重を5kN,供試体厚さを3mmに限定することにより,治具の厚みを10mm程度とする予定である.治具作成費用を確保するため,本年度予算のうち20万強を治具作成経費として次年度に確保することとなった.
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