研究課題/領域番号 |
17K06547
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研究機関 | 徳山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
海田 辰将 徳山工業高等専門学校, 土木建築工学科, 准教授 (10390519)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポニートラス / 腐食 / 耐荷力 / 全橋解析 / 崩壊性状 / 活荷重 / 維持管理 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,現存する橋齢98 年の鋼ポニートラス橋を対象とした全橋解析モデルをシェル要素で構築し,現橋に生じている腐食損傷を解析モデルに考慮した複合非線形有限要素解析を実施した.本解析では,地域の交通実情および通行ニーズを踏まえた車両荷重を活荷重として想定し,解析結果から得られる作用応力,変形状態に基づく本橋の安全性と車両荷重の大きさの関係について考察した.また,活荷重倍率の概念を用いた終局強度解析を実施して,本橋の崩壊性状を明らかにするとともに,崩壊のトリガーとなりうる部材や維持管理で注視すべき腐食損傷を予測した.ただし,本解析モデルには境界条件,部材の拘束条件・接合条件,腐食損傷のモデル化などに多くの「仮定」を含んでいるため,研究期間全体としては,予備解析に相当するため,今後は実橋載荷試験により実現象と解析結果の整合性を明らかにする必要がある.本年度に実施した全橋解析から得られた主な知見は以下の通りである. 1) 車両1 台分の活荷重を想定した解析結果より,腐食損傷を考慮した解析モデルではスパン中央の上弦材継手部の溝状腐食に応力が集中したことから,T-4荷重に対する降伏安全率は1.3 程度と推定され,維持管理の際に注視すべき腐食形態と考えられる. 2) L 荷重(p2 のみ)を想定した終局強度解析では,腐食の有無によって限界活荷重倍率に約24%の差が生じることが確認された. 3) 終局時の崩壊性状については,腐食の無い場合にはスパン中央の上弦材における面外座屈であったが,腐食を考慮した場合には,まず上フランジの孔食内で局部座屈が発生し,次いで下フランジとウェブの断面欠損部が断面内部に座屈することで終局状態に達し,部材の面内座屈を生じて崩壊した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究全体からみた進捗状況としては,当初の予定以上に進んでいる状態といえる.平成29年度は4月に研究をスタートさせる直前の3月の段階で,対象橋梁に塗装塗り替えの補修工事が急遽実施される運びとなり,足場が設置された.管理者の協力により,この足場を利用しての腐食現況調査を短期間で集中して実施できたことが大きい.このことから,本解析モデルの構築にしっかりと時間を割くことができ,前年度に実橋載荷実験を行った他橋の予備解析の実績で培ったノウハウを活かすことができた. ただし,この補修工事の際に一部の主構上弦材について,当初の予定になかった死荷重作用下での部材交換が行われたため,補修工事後に主構の面外変形(残留変形)の様相が変化したように感じられる.また,解析結果から支承部の境界条件が実際と仮定(完全固定)で少し不自然に感じられる部分があることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はまず,現在の解析モデルに導入されている種々の仮定の中で,解析結果(終局耐荷力,崩壊性状,部材応力レベル)に大きな影響を与える因子を洗い出すためのパラメトリック解析を実施する.同時に,上記の補修工事で行われた死荷重作用下での部材交換が主構部材の死荷重応力の再分配に与える影響を解析で追跡したい.また,主構の軸線測量を実施して現橋に生じている面外変形(残留変形)の大きさを明らかにし,補修前の平成27年度の測定結果を比較する.ここで両者に大きな差が生じている場合には,はり要素で構築した全橋解析モデルを用いて,この面外変形が橋梁全体の終局耐荷力や崩壊性状に与える影響について別途検討しなければならない. このことから,本橋の実橋載荷試験は平成30~31年度にかけて実施することとし,解析モデルの実現象との整合性については,平成28年度に実橋載荷試験を行った別のトラス橋の実験・解析データを用いて検討する.なお,本解析モデルは全く同じ仮定と手法によって構築されているため,解析モデルおよび仮定の検証については,別のトラス橋を解析対象としても一般性の高い成果が期待できると考えている.
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