研究課題
過去に実施した他橋の実橋載荷試験の経験および平成29年度の解析結果の考察より,支承部の境界条件における解析上の仮定と実際の挙動の違いが部材の応力評価結果と変形性状の双方に対して,荷重レベルの増加にともなって無視できない影響を及ぼすことが明らかになった.そこで,平成30年度は現存する橋齢99年の鋼ポニートラス橋を解析対象とし,支承部の劣化損傷や主構の面外変形の影響を考慮した全橋解析を実施することで,これらの解析条件が耐荷力や崩壊性状の推定結果に与える影響を明らかにした.橋梁の支持条件については,ローラー支点の固着やアンカーボルトの腐食といった経年劣化によって,設計当初の機能が必ずしも維持されていない可能性が高く,地域の老朽化鋼橋に多く見られるような,ベースプレートがアンカーによって橋座に直止めされた形式の橋梁においては,実際にはピン支持と固定支持の中間的な挙動を示すと考えられ,双方を想定した場合の耐荷力を推定しておく必要がある.本年度に実施した全橋解析から得られた主な知見は以下の通りである.1)境界条件として単純支持を仮定した場合,下弦材や縦桁の主荷重応力が増大し,橋全体の終局耐荷力も低下する.2)解析モデルの境界条件として単純支持と固定支持を仮定した解析結果の比較より,支承部の経年劣化によって本橋の支承機能が低下し,固定支持から単純支持に近い挙動に変化した場合,腐食損傷を有する状態で最大約20%の耐荷力低下が生じる可能性がある.3)境界条件として単純支持を仮定した場合には,支承部付近の下弦材および端柱に発生する二次応力が卓越するため,これらの部材に生じる腐食損傷には,特に注意が必要である.4)現地計測の結果から,本橋には主構に最大L/750(L:スパン)の面外変形が生じていたが,この変形が橋全体の終局耐荷力に与える影響はほとんど無かった.
2: おおむね順調に進展している
研究期間全体からみた進捗状況としては,本研究で構築した解析モデルおよび解析手法,解析目的に応じた仮定に対する考え方を適用すると,橋梁全体レベルで考えたときの腐食部材の応力状態,終局耐荷力,崩壊性状の予測に対する再現性は高くなっており,弾性域における実橋載荷試験の結果との差異は,RC床版のモデル化と境界条件の相違によるものと考えられ,高い信頼性を持って説明できる.平成29年度に実施した曲弦トラス橋の全橋解析結果と実橋載荷試験の比較結果については,すでに論文にまとめており,解析モデルのブラッシュアップについては当初の予定以上に進んでいる状態といえる.当初の計画としては,平成30年度~31年度にかけて鋼ポニートラス橋の実橋載荷試験を行い,実挙動と解析結果の比較例を増やす予定であった.しかし,本研究をスタートさせる直前の平成29年3月に行われた塗装塗り替え工事の際に,一部の主構上弦材が死荷重作用下で交換されたため,平成30年に現地計測を実施したところ,補修工事の前後で両主構の面外変形の様相が大きく変わったことが明らかになった.本解析結果から,この面外変形が橋梁全体としての耐荷力や安全性にたちまち深刻な影響を与える可能性は少ないと判断されるものの,部材交換によって生じる死荷重応力の再配分状況については全くの不明である.このことから,実橋載荷試験によって活荷重応力を測定したとしても,死荷重応力を含む解析結果から信頼性の高い推定結果が得られないことは自明である.一方,死荷重応力が作用した状態での部材交換や衝突事故などによって部材が破断・損傷するケースも地域の鋼橋では多くみられる.そこで,本橋の実橋載荷試験に代わり,トラス橋の中の特定の部材の死荷重応力が開放された場合の応力再配分の影響を把握するための全橋解析についてこれまでにブラッシュアップしてきた解析モデルを用いて今後実施したい.
平成31年度は本研究の最終年度となるため,これまでに構築・ブラッシュアップしてきた全橋解析モデルを用いた本解析(パラメトリック解析)を実施する.本解析の着眼点として,①活荷重倍率の概念を用いた老朽化鋼トラス橋(曲弦プラットトラス)の現有耐荷力評価と補修設計実務との相違点の検証,②トラス主構の中の特定の部材について,死荷重応力が開放された場合に生じる応力再配分の影響,③腐食が進展した場合の終局耐荷力に関する解析的な将来予測,の3点を目標に据える.異なる形式の鋼トラス橋を対象として実施した解析結果より,地域の老朽化鋼橋を省力的かつ経済的に維持管理していくことを見据え,供用年限内の荷重制限や安全性,補修方針に関する技術的な提案と実務に有用な情報を提供する.このことにより,地域の老朽化鋼トラス橋の延命化,長寿命化のための合理的な維持管理の観点から「あと●年」のニーズに応えたい.
地域支援シーズに関する研究内容の紹介として,解析結果の図(一部)を使用
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構造工学論文集
巻: 65A ページ: 90-97
Proc. of BEI-2019
巻: - ページ: 印刷中
http://nit-tokuyama.jp/seeds/data/2018/kaita.pdf