2015年8月の台風15号に伴う降雨により,筑後川の河川堤防では天端法肩からの深いすべりが川表の法面に発生した.この原因は堤防天端のアスファルト舗装の排水不良により,縦断方向からも雨水排水がすべりの発生箇所に集中して流入(以下,排水集中)したためと考えられている.全国的に,集中豪雨が増加する傾向にある中,同様の被災は全国の河川堤防で頻発している. 本研究は,降雨による法面への浸透水のみでなく,排水集中による影響も考慮して,盛土や斜面等のすべりの発生過程をシミュレーション可能な解析プログラムの開発を目的として実施した. 河川堤防を想定した小型模型を作成し,降雨のみを与えた場合と排水集中も与えた場合について実験し,その際の小型模型の変形状況について把握した.あわせて,その模型実験の結果を,河川堤防の設計において一般的に用いられている浸透流解析と円弧すべり解析を用いた数値解析により再現した.さらに,盛土の変形を再現できる粒子法の一種であるSPH法による解析プログラムを開発し,すべりの発生過程と規模についても再現を試みた. 模型実験の結果,筑後川において想定されたメカニズムと同様に降雨のみでは,深いすべりが起こる可能性は低く,天端舗装からの排水集中により,急速に浸潤面が上昇し,深いすべりが発生することが確認された.また,植生の根茎の存在によりすべりが抑制されることが示された. 浸透流解析と円弧すべり解析の結果,模型実験におけるすべりの発生の有無を評価することができた.さらに,変形量解析を実施したところ,模型実験と比較して解析の変形量が大きい結果となったが,排水集中の程度によるすべりの有無,発生過程,規模の差違を確認することができた.この成果を活用し,盛土や斜面の崩壊した土砂の到達距離を計算し,土砂災害に対するリスク評価に使用できる可能性が示唆された.
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