河川等における有機物や栄養塩等の水質計測・モニタリングには定期的採水に基づく室内分析や現場設置型の自動分析装置が用いられているが、前者は多大な労力を要するにもかかわらず現象の動的変動特性が十分に把握できず、また、後者は装置の設置・維持に多大な費用がかかるため多項目の総合的計測が困難である。そこで、本研究では小型化が進み現場利用も可能な分光測定装置を活用して、高時間解像度で精度よく河川水中の有機物、リン、窒素等の濃度をモニタリングすることができる新たな水質計測・定量化手法の確立を目指す。 2022年度は、2021年度に引き続き、室内型紫外可視分光光度計を用いて計測した吸光度スペクトルデータを用いて、主成分回帰法(PCR)、部分最小二乗法(PLSR)、ANN法に基づく化学的酸素要求量(COD)、総窒素(TN)、硝酸態窒素(NO3-N)、総リン(TP)及び総浮遊物質(TSS)の推定モデルを検討した。その結果、NO3-NとCODの推定には波長を限定したPLSRとPCRが、TNには全波長を用いたANNが、また、TPとSSには全波長帯を用いたPLSRとPCRがそれぞれ適していることを示した。また、構築されたモデルに現場携行型紫外可視分光光度計により取得したスペクトルデータを入力として与えた場合の水質推定精度の検証を行った結果、本モデルをそのまま現場携行型紫外可視分光光度計で計測した吸光度スペクトルに適用しても精度よく水質が推定できることが明らかとなった。ただし、高濃度のアンモニア態窒素(NH4-N)が存在する場合は推定精度が低下することがわかった。 以上の検討より、対象河川で採取された検体に対して室内型紫外可視分光光度計から得られる吸光度スペクトルを導入することで、手間のかかる現場での吸光度スペクトル計測を行うことなく信頼性の高いモデルが構築され、水質連続計測に応用できることを示した。
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