研究課題/領域番号 |
17K06580
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
鬼束 幸樹 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (20293904)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 魚道 / 遊泳力 / 魚種 / 魚群 |
研究実績の概要 |
河川にダムや堰が設置されると河川水位が縦断方向に不連続となり,魚類の縦断移動が困難になる.サケやアユなどの通し回遊魚にとって,不連続な水位落差の存在は種の絶滅に直結するため,魚道の併設が望まれる.魚道において高い遡上率を確保するには,魚道の適切な幾何学形状の把握が必要となる.また,魚の遊泳能力は魚の遊泳形態に依存するため,魚種別に魚の遊泳能力を把握する必要がある. 階段式魚道の底面に設置した粗石の配置の変化が魚の遊泳特性に及ぼす影響はほとんど解明されていない.そこで,階段式魚道の底面に設置した粗石の配置を変化させ,オイカワの遡上特性への影響の解明を試みた.その結果,プール底面の上流側に粗石を配置した場合,オイカワは上流側粗石間の空隙を利用して遡上する傾向があることが判明した.これは,粗石間の空隙を利用して遡上することで高流速領域を回避し,疲労の蓄積が軽減されるためと考えられる. 魚種別の遡上特性について比較検討を行った.階段式魚道におけるアユおよびオイカワの遡上特性を比較,検討した.その結果,流量が増加すると,アユおよびオイカワの遡上率が増加することが判明した.これは,流量の増加に伴い,プール内の流速が速くなるため,魚が上流方向を認識しやすくなり,遡上が誘発されたと考えられる. 一方,ウナギ用魚道内の突起物の直径と単位幅流量を系統的に変化させて,クロコウナギの遡上特性に及ぼす影響について検討した.その結果,いずれの突起物の直径においても単位幅流量の増加に伴って,遡上率が増加傾向を示すことが判明した.また,単位幅流量および突起物の直径の増加に伴い,ウナギの蛇行度は増加し,クロコウナギの平均遡上速度が減少することが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
階段式魚道において魚の遡上率および降下率に及ぼす影響として,幾何学形状が挙げられる.魚道の幾何学形状を構成する要素として,プール長,プール水深,プール幅,底面粗度,縦断勾配,横断勾配などが挙げられる.一方,遊泳魚と底生魚では遊泳形態が全く異なる.そのため,遊泳形態は魚種ごとに異なるため,魚種ごとに遊泳能力を把握する必要がある. 階段式魚道の幾何学的要素の一つである底面粗度の配置を変化させた実験を行った.その結果,プール底面の上流側に粗石を配置した場合にオイカワは上流側粗石間の空隙を利用して遡上する傾向があることが判明した.これは,魚の遡上率の向上をめざず魚道の設計指針の基礎データとなることが期待される. これまで,オイカワやカワムツなどの遊泳魚の遊泳能力について検討した研究は多く存在するが,底生魚についての検討はほとんどなされていない.そこで,ウナギ用魚道内の突起物の直径と単位幅流量を系統的に変化させて,クロコウナギの遡上特性に及ぼす影響について検討した.その結果,いずれの突起物の直径においても単位幅流量の増加に伴って,遡上率が増加傾向を示すことが判明した.これは,現在個体数の減少が指摘されているウナギの保全につながる研究結果である. 以上のように,研究の進捗状況はおおむね順調と判断される.
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今後の研究の推進方策 |
魚の遡上・効果を促進させるために河川に魚道が設置される.魚道を設計する上で,魚道の諸条件が魚の遊泳特性に及ぼす影響を把握することは極めて重要である.既往の研究によると,斜面の勾配が14度を超えるとギンブナが斜面に向かう割合が著しく低下することが解明された.このように,勾配等魚道の諸条件を変化させた検討が行われてきたが,横断勾配を変化させた検討はほとんど行われていない.そこで,開水路底面の横断勾配および流量の変化がカワムツの遊泳特性に及ぼす影響について検討する予定である ダムや堰などに設置される取・放水口に魚が迷入し,魚の稚魚が減耗することが問題となっている.これを物理的に防止する手法として,電気スクリーンや障害物,透過光,気泡幕などの利用が提案されている.その中の魚の聴覚を利用する手法として,水中に発生させた音の周波数変化が挙げられる.これまで様々な魚種の音に対する反応や聴覚閾値に関する研究はなされてきたものの,ウナギなどの底生魚を対象とした研究はほとんどない.そのため,静止流体中に周波数の異なる音を発生させ,ウナギの遊泳特性に与える影響を検討する予定である. 一方で,魚の遡上に及ぼす影響として魚道の幾何学形状だけでなく,光などの影響も指摘されている.そこで,上記の物理的要因を変化させて魚の行動を観察し,遡上率の向上に及ぼす影響について検討を行う予定である.
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