研究課題/領域番号 |
17K06588
|
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
道奥 康治 法政大学, デザイン工学部, 教授 (40127303)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 河川構造物 / 自然浄化機能 / 多孔体 / 流れの多様性 / 河川管理 |
研究実績の概要 |
自然材料を用いた河川構造物は,河川景観の形成に貢献するとともに,生息空間としての流れの多様性を創出し,多孔構造体中の通水にともなう有機物除去・水質浄化など付加的な環境機能を有する.石積み構造物は近代以前の伝統工法であり職人の豊富な経験・技能に支えられてきたが,近代技術として今後さらに発展・普及するためには,技術人材の確保や科学技術体系の確立が課題である.本研究では,自然材料を用いた水工構造物の学理を構築し水理公式を体系化することを目指している.昨年度に続き6種類の水工構造物を対象とした研究を継続しているが,本年度においては,(1) 石積み堰と(2) 粗礫交互砂州の環境水理機能にエフォートを集中させたため,それらについての研究概要と進捗状況を報告する. (1) 石積み堰の流況分類と疎通特性 石積み堰は渇水から洪水に至る広範な水文変動に暴露されるため,河川管理上,低水から高水に至るまでの状況下における堰の貯留・疎通特性を把握することが重要である.本研究では,石積み堰全区間にわたり流れが伏没する小流量のRegime-E (Emerged weir),上流で石積み堰が冠水し堰の途中で流れが伏没する中流量のRegime-P (Partially submerged weir), 全区間で堰が冠水する大流量のRegime-S (Submerged weir)を対象とし,「水位-流量」曲線と縦断方向水面形の理論解析を実施した. (2) 粗礫交互砂州の形成条件と水質浄化機能 流れの多様性を担う交互砂州地形は水路の諸元と河床材料に応じて定まる.本年度においては二次元浅水流モデルを用いた水理解析と関連研究の実験結果に基づき,交互砂州形成条件を検討した.同時に交互砂州地形に対応する複断面粗礫砂州水路に対し,二層流解析によって交互砂州内の水理学的滞留時間HRTを求め,水理・地形諸元への依存性を調査した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 石積み堰の流れにおいて発生する三つのRegimeは,堰下流端での条件に応じて,さらに流れが(i) 堰下流からの背水の影響を受ける場合(B-flow)と(ii)堰下流端の支配条件のみに依存して下流区間の影響を受けない場合(C-flow)に分類される.合計6種類の流況:Regimes-SB, SC, PB, PC, EB, ECに対する縦断水面形と「水位-流量」関係の理論解が得られ水理実験との良好な一致が確認された.本解析により,流量qを規定する支配水理量は,堰上流側の貯留水深h0と堰上下流端の水位差Dhの二つであることが明らかにされた.パラメータとしてDhを用いた「水位h0-流量q」関係図では6種類のRegimeが図的に分類され, 水理設計に必要な各流況の出現条件が明示された. (2) 二次元浅水流モデルによる交互砂州地形と流れの解析を実施し,水路幅,水深,河床材料粒径,河床勾配が砂州地形に及ぼす影響が定量的に示された.地形特性のみならず,瀬と淵における流速・水深・掃流力などの局所水理情報は砂州河川の環境水理機能を評価する上で重要な情報である.本年度は一様粒径のみならず混合粒径が砂州地形に及ぼす影響についても検討し,粒度分布曲線の生成方法を開発した.形成された地形諸元(波長・振幅など)を参考にしてSine-generated curveを用いた交互砂州地形の人工水路モデルを作成し,砂州内の透過流を考慮した二層流モデルによる二次元解析を実施した.得られた流れの数値解を用いてLagrange的な粒子追跡を実施し,砂州内の水理学的滞留時間HRTの断面内分布ならびにHRTの断面平均値を算定した.HRTは礫間酸化処理による水質浄化率を規定する支配因子であり,これにより砂州の自然浄化機能に関する定量的評価の可能性が確認された.
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度においては石積み堰の越流・通過特性を検討したが,最終年度においては365日の流況に対する堰の統合管理を視野に入れて研究を進める.低水時においては貯留特性だけではなく透過流の物理的・生物化学的浄化や越流水脈の再曝気など環境水理機能が期待される.高水時においては洪水流に対する堰の耐荷力や堰の疎通能力が管理上の課題である.本理論では透過流の流速と堰長からHRTを評価することが可能であるため,河川流中の有機汚濁物質を対象に様々な礫間浄化実験の知見に基づいて石積み堰の自然浄化機能に関する公式を提案する.また,本理論で用いた運動方程式に含まれる抗力項によって石積み堰に作用する流体力を評価することが可能であり,様々な水理条件と堰諸元の下で流体力と応力集中箇所を明らかにし,石積み構造の補強・維持方策のための公式化を図る.交互砂州河川の自然浄化機能に関しては,二次元浅水流モデルで再現された砂州地形を用いて層厚が空間的に変化する砂礫層を有する人工水路を生成し,二層流モデルを用いた粗礫砂州透過流を再現する.これに粒子追跡を加えてHRTを評価し,砂礫交互河川の自浄機能を定量的に評価する水理公式を確立する.これらに加えて,他の4つ課題,(1) 水防林の護岸機能-疎通障害の定量評価と水防林の最適配置,(2)土砂輸送・地形管理を適正化するための合流点処理(水制の設置方法),(3) 河川構造物を利用した栄養塩除去,(4) 局所洗堀を最小化するための分取水工設計についても研究をとりまとめる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に出張を予定していたが,コロナウィルス感染状況を鑑み中止して未執行となったため次年度使用額が発生した.当該の出張を実施できる状況になれば次年度に執行するが,梅雨期以降には河川流況が変化し,当初の現場視察の効果を期待できない可能性もある.そのため,出張目的を資料収集あるいはヒアリングなどに変更するか,出張をとりやめて費目を変更し次年度予算と合わせて研究計画を順応的に執行する予定である.当初,2020年度において国際会議での研究成果発表などを予定していたが,国外出張の実施は困難であると予想される.そのため,予定していた成果の発表を国際ジャーナルへの投稿に変更する予定である.また,遠隔の打合せ,リモート・データ管理など,これまで以上にネットワークの利活用が必要となるため,国外出張旅費の費目変更も含め,情報管理に必要な機器整備・専門家のアドバイスなどへの予算充当も視野におく.これらの執行調整が研究成果に及ぼす影響はないと考えている.
|