研究課題/領域番号 |
17K06592
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 渉 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (50451878)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 洪水氾濫 / マイクロ波 / 可視赤外 / リモートセンシング / 時空間分解能 |
研究実績の概要 |
衛星を用いた洪水氾濫検知は,空間分解能は低いが全天候型のマイクロ波を用いる方法と,空間分解能は高いが雲の影響を受ける可視・赤外を用いる方法に大別されるが,即時性,高い空間分解能,雲の影響を受けない高い観測精度,の全てを満たす手法の開発が待ち望まれている.本研究では,マイクロ波放射計を用いた低空間分解能の日単位の浸水域図と,可視画像を用いた中空間分解能の週単位の雲なしモザイク画像をデータベース化し,ひまわり画像との間で時空間ミクセル解析を行うことにより,世界で類を見ない,10分に1度,500mの分解能で洪水氾濫を検知するアルゴリズムを開発する.これにより,環太平洋地域の洪水氾濫情報を,我が国が主体となって提供することができる. 本研究は,a) 可視画像を用いた中空間分解能の週単位の雲なしモザイク画像データベース作成,b) マイクロ波放射計を用いた低空間分解能の日単位の浸水域図データベース作成,c) 時空間ミクセル解析を用いた洪水氾濫検知アルゴリズムの開発,の3つに分けられる.宇宙航空科学技術推進委託費(H27-29)「気象衛星ひまわりを活用したアジア太平洋地域の林野火災準実時間観測」(研究代表者 竹内 渉)で,得られる精密幾何補正,雲除去,放射輝度校正などの基本ソフトウェアを利用しつつ,次に示すように,およそ1年間を目安に各要素技術の開発を進める.平成29年度 可視画像を用いた中空間分解能の週単位の雲なしモザイク画像データベース作成,平成30年度 マイクロ波放射計を用いた低空間分解能の日単位の浸水域図データベース作成,平成31年度 時空間ミクセル解析を用いた洪水氾濫検知アルゴリズムの開発.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,可視画像を用いた中空間分解能の週単位の雲なしモザイク画像データベース作成を行った. 可視画像を用いて地表面を観測すると,太陽光が存在する昼間であれば,洪水氾濫が起こっている画素は,ほとんどのエネルギーが吸収されてしまうため,画像が暗くなることを利用して浸水域を抽出することができる.しかし,山岳地域など起伏の激しい地域では直達光が遮られることにより陰影が発生し,水域と非常によく似たスペクトル特性が観測されることが明らかとなっている[Oyoshi, 2014].また,雲に遮られると地表面を観測することができない.本研究で使用を想定している1999年から利用可能なMODISの可視画像は250mの解像度であり,これら2つの影響を無視することができない.陰影の補正は,画素の緯度経度,日時,標高データから擬似陰影画像を発生させ,画素値をこれで除することにより,理論的な補正が可能である[Vermote, 2001].雲については,時間方向に複数の観測データを並べ,反射率の著しく高い雲である画素を除外し,複数年間の平均的な変動パターンを考慮して,統計的な時間内挿を施すことにより,除去をすることが可能である[澤田,2009].データの提供元であるNASAからはこのような処理を施したデータセットが公開されていないため,今回改めて1999年から2015年までの長期間にわたるデータセットを作成し,参照データとして整備を行った.
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,マイクロ波放射計を用いた低空間分解能の日単位の浸水域図データベース作成を行う. マイクロ波放射計を用いて地表面を観測すると,植生や建物のない裸地では,土壌含水率が高いほど垂直偏波Vと水平偏波Hの差が大きくなることが知られている[Sippel, 1986].[竹内ら,2006]は,周波数,空間分解能,雲の影響のトレードオフの関係を加味した結果,36.5GHzの周波数帯を使用して10kmの空間分解能で地表面の冠水状態を把握できることを明らかにした. 現在入手可能なデータである2003年から2011年までのAMSR-E,2012年以降のAMSR2を用いるためには,センサの交代を加味した相互校正を施す必要があり,これにより2003年から2015年までの13年間の長期にわたるグローバルな日浸水域図を作成する.10kmの解像度で問題となる,海岸線,湖沼,河川の境界での複数カテゴリの混在(ミクセル),植生や都市域のビルや住宅などからの散乱成分の減衰は,MODISから得られた植生指数,浸水域分布図を利用し補正を行う.これにより,高時空間分解能を有する洪水氾濫データベースが作成できる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していたセンサの価格単価が下がったため,計上していた費用を翌年に繰り越した.
|