研究課題/領域番号 |
17K06613
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
石川 奈緒 岩手大学, 理工学部, 助教 (10574121)
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研究分担者 |
伊藤 歩 岩手大学, 理工学部, 准教授 (90312511)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 抗菌性物質 / 土壌 / 藻類 / 毒性試験 / 収着 / 分解 |
研究実績の概要 |
家畜に投与された抗菌性物質の一部は、家畜の体内で分解されず排せつ物として体外へ排出され、さらに堆肥とともに農耕地へ拡散し、薬剤耐性菌の発生に寄与する可能性がある。本研究では、抗菌性物質の土壌への収着、易動性および分解性を実験的に明らかにした。スルファモノメトキシンについて3種類の土壌で温度条件を変えて収着・分解試験を行った結果、黒ボク土と灰色低地土では、時間とともにスルファモノメトキシンが消失しており、土壌への収着も少なかった。また、25℃と4℃の条件で収着・分解試験を行った場合、25℃条件の方が消失が速いことから、スルファモノメトキシンの分解は微生物による可能性が示唆された。一方褐色森林土では、25℃の方が消失した量が4℃よりも多いが、30日間スルファモノメトキシンと褐色森林土を接触混合させても60%は残存しており、さらに残存しているほとんどが液相に存在しているため、スルファモノメトキシンは土壌へ収着しにくいことが示された。 昨年度の成果から、タイロシンは土壌中のイライトなどの粘土鉱物に接触することで分解されることが示唆された。そこで、タイロシン溶液とイライトを接触させた後のタイロシン分解生成物が存在すると考えられる溶液を用いて藻類Raphidocelis subcapitataへの短期毒性試験を行った。その結果、タイロシンの分解生成物はRaphidocelis subcapitataに生長阻害を起こさないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、土壌中で抗菌性物質の分解が生じることが明らかとし、土壌中のイライトがタイロシンを分解する可能性を示し、さらにスルファモノメトキシンはタイロシンよりも土壌中で分解しにくいことを明らかにしており、抗菌性物質による土壌中の挙動について比較することができた。さらにイライトにより分解されたタイロシンの分解生成物を含む溶液で藻類の毒性試験を行うなど、ほぼ順調に研究は進行している。分解生成物については、高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析装置でのMSスキャンにより分析をしており、その結果の解釈について現在検討を行っている。 さらに、土壌中の抗菌性物質の分解がCO2まで進むのかを確認するため、放射性同位体炭素(14C)で標識した抗菌性物質を用い、土壌で分解した14CをCO2として捕集する捕集試験を行う予定である。今年度は本学のRI実験施設が使用できない期間があり、放射性同位体を用いた実験を行うことができなかった。来年度は使用できるため、本学のRI実験施設にて実験を行う予定であり、もし難しい場合は、他機関のRI実験施設を利用して実験をすることも検討している。 また、今年度に引き続き水域環境での抗菌性物質の影響について明らかにするため、鉱物などに接触し分解した抗菌性物質を含む溶液を用いた藻類への短期毒性試験を行う。試験はOECDのガイドラインに従い、推奨種である淡水産単細胞緑藻類 R subcapitataを用いる。培養した藻類を数段階の濃度に設定された抗菌性物質に添加、培養し、経時的な増殖曲線を得る。増殖曲線から、分解生成物の生長阻害への影響を評価する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、土壌への抗菌性物質の収着試験については順調にデータを出している。次年度は本年度に引き続き他の抗菌性物質について土壌への抗菌性物質の収着分解試験を行い、データを収集することに加え、土壌中に存在する抗菌性物質の分解生成物による藻類の毒性試験を行う。今年度、鉱物によりタイロシンが分解する可能性を示すことができたので、他の抗菌性物質についても同様の現象が起こるのかを明らかにする必要が出てきた。したがって、来年度は他の抗菌性物質についてもイライトと接触することによる分解特性についても確認することを検討する。 また、放射性同位体を用いた実験については、実験系を組む準備段階を終了しており、、次年度に本学の施設または他機関のRI実験施設において実験を行う。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進行しているといえる。
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