研究課題/領域番号 |
17K06620
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
橋本 温 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (30332068)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 嫌気性芽胞菌 / PMMoV / 代替指標 |
研究実績の概要 |
本年度は、河川水中での嫌気性芽胞菌および指標ウイルスであるPMMoVの生残性、挙動の比較を2つの実河川および人工環境下においた河川水中で評価した。 中山間地を流域とするSa川のSy市に位置する採水ポイントA、直近下流で下水処理場放流水の流入した後のポイントBおよびその2.7km下流域に位置し、流下途中での他の糞便汚染の流入の影響のないポイントCにおいて年間を通してサンプリングを行った。このうち、ポイントBとC間での嫌気性芽胞菌、PMMoVおよびその他の糞便汚染指標(大腸菌、腸球菌)の濃度変化および河川流量を基に算出した負荷量の変化は大腸菌、腸球菌では半減したものの、PMMoVおよび嫌気性芽胞菌はほとんど変化が見られなかった。 また、河川水に下水放流水(塩素消毒前)を10%添加し、滅菌三角フラスコ中20℃で振とう培養して、それぞれの指標細菌およびウイルスの生残性を評価したところ、大腸菌、腸球菌は直後に減衰し、40日経過後には-4logの減少であったのに対して、嫌気性芽胞菌およびPMMoVは-0.5log程度の減少と高い生残性を有することが示された。 なお、PMMoVについては、RT-qPCRによる標的遺伝子の定量評価であることから、死滅したウイルスやフリーのRNA/DNAを検出している可能性もある。そこで、PMMoVのPCRによる検出の前にPMA処理を行って、intactなウイルスのみの検出を試みた。PMA処理後の40日目のPMMoVの減少率は-1.0log程度と未処理の2倍の減少率となったものの、髙い生残率が確認された。 これらより、河川および河川水中での生残性は嫌気性芽胞菌>PMMoV>PMA-PMMoV>>大腸菌、腸球菌の関係となり、嫌気性芽胞菌がウイルスの生残性と類似している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、実河川での嫌気性芽胞菌の挙動評価に加えて、室内一帯の環境下での下水放流水中の嫌気性芽胞菌の挙動評価を行い、嫌気性芽胞菌および指標ウイルスPMMoVの河川水中での挙動や生残性に関する検討が実施できた。また、PMMoVのRT-qPCRでの定量の前処理としてPMA処理を行い生残性の評価手法が確立された。 このうち、河川の流下実験および室内実験においては、嫌気性芽胞菌が環境中で長く生残すること、PMMoVも同様に環境中で生残することから、嫌気性芽胞菌がウイルスの汚染指標として効果がある可能性が示されたことは、研究計画での課題を順調に進展しているものと考えられる。特に、室内実験において、それぞれの微生物の挙動特性が評価できたことは重要な研究成果である。 さらには、本研究計画から進展して、生残性のある可能性の高いPMMoVの検出手法が確立できたことは特筆すべきことであり、嫌気性芽胞菌が網羅的な指標として、特にウイルス指標としての有効性を探る本研究の目的を進めるための重要な手法として今後の研究の進展に大きな影響を与えるものである。 これらを勘案して、今年度の進捗状況は、当初の計画以上の進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在までに得られた嫌気性芽胞菌およびPMMoVの室内実験および河川流下実験での挙動特性を基に、嫌気性芽胞菌の網羅的な指標としての有効性について考察する。そのために必要なデータの補完、特に河川等での生残性に関する検討と、汚染源となる下水放流水およびその処理工程における他の指標細菌およびPMMoVとの比較についてのデータ取得を行う予定である。 これらの得られたデータを基に、ウイルス指標であるPMMoVとその生残性、分布、挙動および環境条件(水温、河川等の検討では紫外線量など)との関係を整理して、嫌気性芽胞菌の従来の指標としての意義、すなわち、原虫の汚染のおそれの判断指標、保存性の高い糞便汚染指標に加えて、嫌気性芽胞菌の新しい意義であるウイルス指標としての有効性を示し、複合的な水質評価が可能な「網羅的な」微生物指標としての有効性について検討、評価を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品費に端数が生じたため、316円の次年度使用額が発生した。次年度の消耗品費として適正に使用する。
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