初年度は、水晶振動子センサー上で、高塩濃度下での生物膜形成速度の定量的評価を目的として研究を遂行した。フローセル内に設置されたセンサー表面に生物膜を形成させることで試験した。センサーが示す周波数の減少量と、付着生物膜量の間には正の相関が認められた。まず、異なるCa濃度の下での測定から、Ca2+濃度0-8mMの間で生物膜形成の増進効果があり、16mM以上では8mM時と比較して速度が減衰することがわかり、適切なCa濃度に制御することで生物膜形成を促進できることが示された。しかしながらNa+の共存によりカチオン吸着の競合が起き、上記のポジティブな効果が減少することがわかった。150mMのNa濃度下では、Ca濃度によるポジティブな影響がほとんど打ち消された。二年度目にはこの評価方法を用いて、高Na濃度下で生物膜形成を促進させる条件の探索を行なった。Ca、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリ-L-リシン(PLL)、ポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)の4種類を、150 mMのNa濃度下において別々に添加し、生物膜の形成速度を評価したところ、CaとPACはほとんど形成速度にポジティブな影響がなく、PLLはわずかに形成が促進されたのに対し、ポリ鉄は大きな形成促進の影響が認められた。10 mg/Lの添加量において、約1時間あたりPAC添加の場合の8倍の形成量が認められた。これを踏まえ、最終年度には農業残渣の炭化物を鉄修飾物を核とし,高塩分中における生物膜顆粒の発達促進を意図してUASB リアクターを使った連続実験でその効果を検証した。炭化物を添加した場合の平均メタン生成速度は1.58 L/L/dであり,添加しなかった場合の1.20 L/L/dより高かった。採取した生物膜顆粒のメジアン径D50は添加ありの場合の方が1割程度大きいことがわかり、鉄修飾炭化物の添加が生物膜の発達を促進させることが確認された。
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