研究課題/領域番号 |
17K06629
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
原田 幸博 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (10272791)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 建築構造・材料 / 鋼構造 / 低サイクル疲労 |
研究実績の概要 |
平成29年度の既往研究調査を通して、我が国の建築鉄骨架構で多用される鋼管柱-梁接合部の低サイクル疲労性能を解明する上で、せん断応力下での低サイクル疲労性能に関する知見が不足していることが判明した。建築鉄骨架構に鋼管を多用するのは我が国特有の設計慣行であり、海外の文献を探っても同溶接部の低サイクル疲労性能に着目した実験研究を見つけることが困難であるのがその理由である。同部位の低サイクル疲労性能は、鋼管柱-梁接合部で水平荷重時に大きなせん断応力が発生するパネルゾーン内での低サイクル疲労破壊がクリティカルとなり得るか? という点を確認する上で必要な情報である。そこで、平成30年度は繰り返しせん断応力を受ける溶接継目の低サイクル疲労試験を実施した。対象とした鋼材は、今後高層建物を中心に普及が進むと思われる建築構造用高強度鋼材とした。溶接継目の強度設定は、通常のオーバーマッチング(溶接金属の強度が母材の強度を上回る)に加えて、アンダーマッチング(溶接金属の強度が母材の強度を下回る)も試験パラメータに盛り込んだ。得られた試験結果を分析した結果、(1)アンダーマッチング継手の低サイクル疲労性能はオーバーマッチング継手の性能を下回った、(2)せん断応力下の低サイクル疲労試験結果が直応力(引張・圧縮応力)下の試験結果から(既往研究で提案されている)簡単な変換式で評価できる、の二点を確認できた。特に、(2)の結果により、複雑な応力状況下での低サイクル疲労性能をより精度よく推定するための知見が整備できたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、平成30年度中に溶接継目の有限要素解析を終えて骨組解析による低サイクル疲労性能検証に着手する予定であったが、せん断応力下での低サイクル疲労性能に関する知見を補うための実験研究に費やした。平成31年度は、有限要素解析と骨組解析を同時並行で進めるべく、準備を進めているところである。当初予定と違って二種類の解析関係作業を並行して実施できる見通しが立っているため、現在の遅れが研究全体の進捗に及ぼす影響はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の前半は、長周期地震動による多数回繰返し荷重条件下での建築鉄骨架構の低サイクル疲労性能を数値シミュレーションによって評価するための二種類の解析、有限要素解析と骨組の地震応答解析を同時並行的に進める。具体的には、(1)鉄骨梁端部の詳細な有限要素モデル化(ひずみ集中点となり得ることがわかっている溶接止端縁・スカラップ底のひずみ分布がわかるレベルの詳細モデル)と繰返し弾塑性解析の実施、(2)超高層建築鉄骨架構の地震応答解析用の骨組モデルの作成、の二つの内容を同時並行で進める。(2)の実施については、高層建物の構造設計の実務に詳しい構造設計者の協力を得られる予定である。年度の後半には、上記二種類の解析結果を組み合わせて、超高層建築鉄骨架構の低サイクル疲労性能を個々の溶接継目レベルの損傷度として評価する手法への提案につなげる。同提案手法の特長は、層レベルで損傷度を評価する既往提案手法よりも精緻な評価ができる点、ミクロな低サイクル疲労破壊のばらつきの影響を評価に組み入れることができるので最終的な架構の損傷度評価にもばらつきの情報を付加できる点、の二点である。
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