研究課題/領域番号 |
17K06633
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寒野 善博 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (10378812)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 最適設計 / 構造最適化 / 凸最適化 / 交互方向乗数法 / 近接勾配法 / 加速勾配法 |
研究実績の概要 |
建築構造物の数値シミュレーション手法では,実世界における構造物の詳細を反映した大規模モデルを扱うことが現実に可能となってきている.これに比べると,最適設計法が適用できる構造物の規模は極めて小さい.一方で,近年,データ科学の分野ではさまざまな最適化手法に対する加速法が急速に開発され,超大規模な最適化問題も現実に解けるようになってきている.この状況に照らして,この研究課題では,大規模最適設計問題に固有の性質にうまく適合する種々の加速法を開発することを目的としている. 平成29年度は,主に,建築構造力学の問題に即した加速法の理解という観点で研究を遂行した.勾配法とよばれる最適化手法の加速法として代表的なものは「Nesterovの加速法」とよばれる手法であるが,なぜこの方法により勾配法が加速されるのかを直感的に理解することは極めて困難であるとされている.そこで,この研究課題では,建築構造力学に現れる代表的な最適化問題としてポテンシャルエネルギー最小化をとりあげ,これに対する加速勾配法を新たに開発し,その挙動を確認した.具体的には,von Misesの降伏条件の下での弾塑性増分問題をとりあげ,これを非平滑な無制約最適化問題として定式化し直し,その問題に対する加速近接勾配法を提案した.また,これと平行して,いくつかの組合せ的な性質をもつ最適設計問題に対して,大域的な最適化手法を開発した.これは,従来は大域的に解けなかった問題が解けるようになったという意味での最適設計法の加速であると位置づけられるのに加えて,次年度以降の研究におけるベンチマークとなるという問題を作るための手法としての意義もある.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた弾塑性増分問題に対する加速近接勾配法の開発は,初年度の研究計画の通りの成果である.この成果は,計算力学の分野で初めての加速法の提案である.また,実際に主双対内点法とよばれる既往の手法との比較実験を行うことで,計算力学の分野において加速法が有用であり得ることが実証された.ここで得られた知見は,次年度以降の設計問題の加速という目標の指導原理となるものである. また,「研究実績の概要」で述べたもう一つの成果であるいくつかの組合せ的な性質をもつ最適設計問題に対する大域的最適化手法の開発についても,それ自体がこれらの問題に対する従来よりも高速な解法であるとともに,次年度以降に開発する最適設計手法の性能を精確に評価する準備ともなっている.
|
今後の研究の推進方策 |
種々の最適設計法の加速法として,主に二つの方向で研究を進めていく.一つは,従来はメタ解法などにたよらざるを得なかった組合せ的な性質をもつ最適設計問題に対する,計算コストの小さな発見的手法の開発である.メタ解法は,設計変数の数が増すと計算コストが急速に増加するため,大規模な設計問題には適用できない.これに対して,簡単な発見的手法を提案することで,最適設計の加速を目指す.もう一つは,種々の凸または凸に近い最適設計問題に対する加速勾配法の開発である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
この研究課題の目標の一つに,組合せ的な性質を含む最適設計問題に対する高速な発見的手法の開発がある.研究課題を遂行するうちに,このためには交互方向乗数法などの組合せ的な性質をもたない最適化手法の拡張を検討することが必要であることが明らかになった.このため,計画を少し変更して,まずそのような拡張の余地と有効性を検討する必要が生じた.次年度使用額はこのために生じたものである. 組合せ的な性質を含む最適設計問題に対する提案手法の有効性を検証する.次年度使用額で,この数値実験に必要な計算機関連の消耗品を購入する.これに加えて,研究の成果を国際会議や国内の学会において発表するための海外および国内旅費と学会参加費として使用する.
|