研究課題
古材化が細胞構造の力学挙動に及ぼす影響を調べるため,シンクロトロン光を用いたXRD測定を行い,先年開発した力学負荷装置を用いて,細胞壁2次壁のS2層のセルロースの力学挙動を測定した.さらに,古材化を模擬した150℃の熱処理試験体を用い,熱処理と古材化の影響を調べ,エネルギー論の観点から耐久性考察した.供試材はアカマツの新材と古材(築250年解体材)である.XRD測定を伴う力学試験では,繊維方向に引張負荷を与えた.引張負荷を破壊に至るまで段階的に作用させ,その都度XRD測定を実施し,細胞壁内のセルロース鎖のセルロース結晶ひずみを得た.巨視的な力学挙動を測定するために,負荷装置取り付けのロードセルから荷重を,試験体中央に張り付けたひずみゲージからひずみをデータロガーで記録した.また,試験体に作用した荷重やひずみはXRD測定中の平均とし,セルロース鎖に作用した荷重はセルロース鎖の配向性を考慮しその分力とした.実験結果より,古材化の影響をエネルギー論により定量評価を試みた.新材と古材はともに,熱処理による損傷の増大に伴い破壊に要するひずみエネルギーが減少した.しかし,熱処理の影響は新材と古材で異なり,古材のほうが影響は小さい.古材化の影響により熱処理の影響が異なったと考え,新材の重量減少率とひずみエネルギーの関係をマスターラインとし,古材の関係曲線が一致する点を解析した.その結果,古材化の影響は巨視的なオーダーでは重量減少率で1.27%の,微視的なオーダでは7.47%の影響と推定された.さらに,伝統的木造建築における接合部の性能を実用の観点から評価するため,実大材を用いて部分横圧縮疲労試験を実施した.昨年度まで無欠点小試験体をベースとし,実大材での実験手法を確立した.また,実験結果より,実大材の疲労限度は無欠点小試験体と比較して,有意に疲労限度が低下することを明らかにした.
2: おおむね順調に進展している
当初計画を基に,疲労試験として新たに実大材の横圧縮疲労試験を行い,ひずみ挙動の解析から疲労限度の推定と寸法効果や年輪構造の影響を明らかにした.また,古材の力学挙動のメカニズムを明らかにするために,XRD試験を本格的に開始し熱処理を用いた劣化促進試験の試験を完了した.これらの成果について,学会発表を行うとともに,学術論文の作成に当たっている。
2019年度で実験は概ね終了している。2020年度は本件の成果公開(学術論文、学会発表)を精力的に行う。
コロナ禍の影響を受けて、当初予定した学会大会が現地開催されなかったことによる。次年度は研究成果について積極的な発表を行う。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件)
Journal of Materials Science
巻: 55(12) ページ: 5038, 5047
https://doi.org/10.1007/s10853-020-04346-7