研究課題
本研究の目的は,古建築の維持管理および新築木造建築物の長寿命化を鑑み,使用されている木材(以降,古材とする)の力学的耐久性をマクロ挙動とミクロ構造の両面から明らかにすることである.実験に供した古材は,築200年以上の既存構造物から採取したアカマツで,比較対照はアカマツ新材とした.まず,マクロ挙動について,古材と新材の繰返し負荷試験(引張,曲げ,部分横圧縮)を行い,諸疲労特性について古材化の影響を調べた.主な研究知見は次の通りである.①古材の破壊形態は新材と比べて脆性的である,②古材のうち,より表面に近い部分は材中央部(髄付近)や新材と比べて疲労寿命のばらつきが非常に大きく,木材個体内の古材化に分布があることが示唆された.材中央部の疲労寿命は新材と同程度である.③繰返し負荷中の包絡線ひずみエネルギーは,古材化により明らかに低下する,④古材の包絡線ひずみエネルギーでは,破壊時のひずみエネルギーが占める割合が増加する.以上のことから,包絡線ひずみエネルギーを用いることで,木材の力学的耐久性を評価できる可能性を示した.次に,ミクロ挙動について,引張および圧縮荷重下における無欠点小試験片の破壊挙動をシンクロトロン光によるXRD測定により詳細に観察した.シンクロトロン光を用いることで,複数の年輪を有する試験片に対して,微細構造と木材Bulkの力学挙動を同時測定することに成功した.さらに,セルロース鎖の量の少ないS1層およびS3層の力学挙動も測定することが可能となり,XRD回折法を工夫することで,仮道管細胞壁2次壁各層のセルロース鎖の力学挙動の測定に成功した.試験法を確立したことにより,古材化による微細構造の力学挙動の変化を明らかにした.すなわち,古材では,木材Bulkと仮道管細胞壁2次壁内のセルロース鎖の力学挙動が同調せず,伸縮の動きにズレを生じることを明らかにした.
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Holzforschung.
巻: online ページ: 1-7
10.1515/hf-2019-0222
International Journal of Architectural Heritage
巻: online ページ: 1-8
10.1080/15583058.2020.1743793