研究課題/領域番号 |
17K06639
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
護 雅史 名古屋大学, 減災連携研究センター, 特任教授 (40447842)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 2016年熊本地震 / 建物被害 / 杭基礎被害 / 被災シミュレーション / 地盤震動 / 常時微動計測 / 浅層レーリー波探査 / 地盤非線形 |
研究実績の概要 |
本研究は、2016 年熊本地震における庁舎建物の強震時応答を、被災状況等の詳細な情報や調査結果に基づいた被災シミュレーション解析により明らかにするものである。なお、本建物は、耐震補強後、震度7 を2 回経験していることから、耐震補強効果や2 回の地震動の影響等についても分析を加える。さらに、得られた検討成果を展開し、南海トラフ地震や首都直下地震など、近い将来の発生が危惧される大地震に対する庁舎建物等、同種の中低層RC 建物の地盤―基礎-建物連成系での被害推定を試みることを目的としている。このため、平成29年度は以下の項目を実施した。 (1) 建物・周辺地盤関連の資料収集と現地調査 分析対象建物に関する設計図書や耐震診断・耐震補強報告書に加えて、被災度判定調査書類を収集し、解析に必要な情報を整理した。また3~4日かけて、当該建物の被害調査と建物内、及び周辺地盤の常備微動計測を行った。具体的には、周辺地盤のみ、周辺地盤と建物、建物内の3 ケースで実施し、地盤、建物の振動特性、及び有効入力動など地盤と建物の動的相互作用についての分析を行った。さらに、周辺地盤において、浅層レーリー波探査を4測実施し、表層地盤の物性を推定した。これらの成果は、被災シミュレーション解析モデルの作成に有効活用する。また、入力地震波の推定のため、KiK-net益城から当該建物を結ぶ測線について、単点の常時微動計測を実施し、2点間の地盤振動特性を把握した。 (2) 地震応答解析モデルの構築と表層地盤応答評価の準備 (1)で収集・整理した情報をもとに、KiK-net益城で観測された地震波から入力地震波を推定するための地盤モデルを構築することを目的として、地盤物性値のパラメータの同定を試みた。これらについては現在継続中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画をほぼ達成していることから、おおむね順調と判断した。ただし、活用予定の地震波に疑義が生じたため、これを使わずに解析を行っていくための検討が必要となっている。建物解体終了が今年度となるため、杭の被災調査を今年度実施することにしている。
|
今後の研究の推進方策 |
杭の被災調査を今年度実施する。これらの結果を踏まえて、今後、以下を実施する予定である。 (2) 地震応答解析モデル構築と表層地盤応答評価を継続する。 (3) 被災シミュレーション解析の実施:(2)の検討結果を基に、解析モデルを改良する。これを用いた解析より、当該建物の被災メカニズムを明らかにする。これを通じて、既往の杭基礎建物に対する被災シミュレーション解析におけるモデル化の妥当性や課題が抽出される。なお、本検討でも被災状況の説明が困難な場合は、(4)構築した解析モデルによるパラメトリックスタディの実施を先送りとし、研究協力者との協働により、3次元有限要素法による解析を実施することも視野に入れる。 (4) 構築した解析モデルによるパラメトリックスタディ:(3)で構築した解析モデルをベースに、当該建物の耐震補強前のモデルを作成し、地震応答解析を実施することにより、耐震補強が上部構造と下部構造の被害に与える影響について明らかにする。当該建物では、耐震診断が実施されており、耐震補強前の状態も再現できることから、このような検討が可能となる。また、4 月14 日、16 日の地震を連続して入力することにより、2 度の震度7が当該建物応答に与えた影響についても分析を加える。さらに、軟弱地盤に立地する同種の中低層RC 建物は日本全国に存在することから、本研究成の他地域展開を目的として、ここでは特に南海トラフ地震に着目し、濃尾平野の軟弱地盤に立地する杭基礎建物を想定した地震応答解析を実施して、既往の被害想定では十分に考慮されてこなかった、動的相互作用を考慮した場合に起こりうる被害様相について明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
H29年度に杭基礎の被災調査を計画していたが次年度にずれ込んだため、次年度使用額が生じた。この点は、申請当初から予測していた事項で、申請書にも記載している。したがって、本予算分は今年度実施する杭基礎被災調査に使用する計画である。
|