研究課題/領域番号 |
17K06641
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊庭 千恵美 京都大学, 工学研究科, 助教 (10462342)
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研究分担者 |
谷口 円 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 建築研究本部北方建築総合研究所, 主査 (20462351)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 凍害機構 / 熱力学 / 破壊エネルギー / 熱分析 / 多孔質材料 / 熱水分同時移動解析 |
研究実績の概要 |
建築物の長寿命化における大きな課題として、多孔質建築材料の凍害劣化が挙げられる。凍害を受けた材料では内部に多くのマイクロクラックが観察され、局所的な微破壊の累加として損傷する。本研究は、凍結融解過程で系に出入りする熱エネルギーの一部が材料に仕事をし、破壊エネルギーとして吸収される結果、塑性的な変形に至るのが凍害の現象であるという考えに基づき、劣化現象と破壊に消費されたエネルギーを対比する手法で、凍害劣化のメカニズムの新たな解釈を提案するものである。 平成29年度は、まず焼成温度や原料土が異なる3種類の焼成材料を対象に、細孔径分布、水蒸気等温吸着線、乾燥密度等の基礎物性の測定を行った。この結果を用いて各材料の凍結温度の推定を行った。また、今後これらの材料を対象に熱水分移動解析を行う基礎データとなる水分化学ポテンシャル-含水率関係を整理した。 物性を測定した1種類の焼成材料に対し、DSC(示差走査熱量計)を用いて凍結融解作用下での熱量の出入りを測定した。予備実験として、昇温・降温速度や最低温度等の条件を変えた測定を行い、本実験の条件・手順を定めた。さらに、次年度行うTMA(熱機械分析)測定時の水分蒸発を抑制する手法について検討した。 また、材料内の熱水分同時移動解析においては、既往の解析モデルでは凍結融解過程の計算に長時間を費やしていたが、基礎式の一部を線形近似することにより、凍結時の計算速度を大幅に向上させた。さらに、その近似手法の適用範囲を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DSCにより多孔質材料の凍結融解時の熱の出入りを測定すること、またその手法を確立することが本研究の初年度の目的であったため、実験条件・手順を定めたことで順調に進捗しているといえる。 数値解析については、既存のレンガの物性値を用いて凍結融解を含まない二次元の熱水分同時移動解析モデルを作成し、吸水実験との対応を確認した。凍結融解を含む場合は一次元での解析モデルを作成したものの、凍結融解実験との対応は今後確認する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
DSC測定の試料数・種類を増やし、材料のばらつきや物性値が結果に与える影響を把握する。また、凍結融解時に放出・吸収されるエネルギーから破壊エネルギー抽出手法を確立する。 同種の試料を対象にTMA測定を行い、凍結融解作用下での長さ変化挙動を測定する。さらに、同種の材料を用いて力学的破壊エネルギーの測定を行う。TMAで得られた残留変形、力学的破壊エネルギーとDSC測定で抽出された破壊エネルギーとを対比させ、手法の妥当性を検証する。 数値解析においては、凍結融解を考慮した二次元の熱水分移動解析を行い、様々な環境下で材料内含水率・含氷率の分布を予測する手法を確立する。解析の妥当性を検証するため、凍結融解実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関する学会発表のための費用を次年度に繰り越しておく必要が生じたため。 次年度使用額とした分は、2018年9月に行われる国際会議へ出席するための旅費および学会参加費、英文校正費に充当する。
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