研究課題/領域番号 |
17K06646
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉岡 智和 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (40304852)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非構造壁 / 摩擦ダンパー |
研究実績の概要 |
軽量PCaRC制振方立て壁試験体3体の水平加力実験を行った。試験体の共通事項は,寸法(幅1,350mm×高さ2,000mm×厚さ150mm=実大スケール),軽量1種コンクリートの使用,横筋D10@200ダブルの配筋である。試験体は下部加力桁に載せ置いた上で,上部加力桁と壁頭を摩擦ダンパー部ファスナーで,下部加力桁と壁脚を固定部ファスナーにより,片面のみ連結する形式とした。W1試験体では縦筋D10@150ダブル(端部に180°フック)を配筋し,壁脚固定部のボルト端抜け破壊を想定した。W2-1試験体では縦筋D10@150ダブル(壁底面に鋼製塞ぎ板を設け溶接)を配筋し,壁脚部の斜張破壊を想定した。W2-2試験体では縦筋D10@300ダブル(壁底面に鋼製塞ぎ板を設け溶接)に加え,W1,W2-1の縦筋断面積と等しくなるように斜め筋をファスナー取付面に偏らせて配筋し,壁脚部の曲げ破壊を想定した。 大地震時を模擬した水平加力実験の結果として,(1)摩擦ダンパーの初期ボルト張力の総和を150kNとすると,全試験体で方立て壁に軽微なひび割れ損傷が発生するものの,摩擦ダンパーが作動し100kN前後の減衰力を発揮でき,想定通り概ね剛塑性型の履歴ループが得られ,(2)初期ボルト張力の総和を300kNとした場合に,全試験体で壁脚固定部位置での縦筋引張降伏領域の拡大に伴うひび割れ幅の増大により方立て壁の曲げ変形が増大し水平剛性の低下を招き,想定よりやや乏しいエネルギー吸収性能が得られ,(3)(2)の方立て壁の曲げ変形の増大に伴い,摩擦ダンパーの締め付けボルトが連結鋼板に接触することにより壁負担せん断力が急増し方立て壁の破壊に至った。破壊形式は,W1は想定通りであったが,摩擦ダンパーでのボルトの接触により上下方向への変形が拘束されたW2-1,W2-2では方立て壁が曲げ圧縮破壊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既往研究の成果及び基・規準を基に設計した軽量PCaRC制振方立て壁試験体(3体)の水平加力実験を実施することで,設定した2つの課題(研究目的)に対し (1)軽微な損傷を維持し摩擦力約100kNを発揮する剛塑性型の履歴ループが得られること,(2)破壊形式(ボルト端抜け破壊,曲げ圧縮破壊)の確認が行えた。加えて,制振方立て壁としてエネルギー吸収に富む剛塑性型の履歴ループを得るためには,縦筋を引張降伏させず方立て壁の水平剛性を出来るだけ低下させないことが重要であり,さらに縦筋の引張降伏領域の拡大すると方立て壁の曲げ変形(回転)が増加し,それによる摩擦ダンパーの摩擦力の予想外の増大を招き,想定していない方立て壁の破壊が生じる恐れがあるので,当該制振方立て壁では縦筋の引張降伏を生じさせないことが重要との知見が得られた。また,そのためにはファスナー取付面側に縦筋を多数配筋することが効果的である可能性を示唆する実験結果も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度研究で新たに得られた知見である「縦筋の引張降伏を生じさせないことが重要」,及び「ファスナー取付面側に縦筋を多数配筋することが効果的」であることを確認するため,軽量PCaRC制振方立て壁試験体の水平加力実験を実施する。試験体は,前年度研究で実施したW2-2試験体の斜め筋と同じ断面積の縦筋をファスナー取付面側に偏って配筋したW2-3試験体と,W2-3の2倍の断面積を有する縦筋を配筋したW3試験体を計画する。 得られた実験結果に基づき,当該制振方立て壁の荷重変形復元力特性を評価するための履歴ルールを提案する。さらに,それを適用したRC/SRC構造の共同住宅の時刻歴応答解析を行いその効果を確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用したファスナー用ビルトアングルの製作費が当初予定より高額となったため,当初計上した学生謝金の大部分をそれに充当し,残りの一部を次年度に繰り越した。なお,繰越金は次年度の試験体製作費の一部として利用する。
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