本年度は,方立壁のひび割れ損傷の発生を防止し,水平剛性の低下を防ぐ方法を確認するために, 前年度に実施したW3-1試験体と同様の形状寸法,壁筋の配筋,使用材料を用いた方立壁に対し,壁高方向にアンボンドPC鋼棒(17φ,C種1号×9本)を内蔵しプレストレス(圧縮力=950kN)を導入したW3-1-PS試験体の水平加力実験を実施した。W3-1-PS試験体では,減衰力100kNを発揮させた場合に,W3-1試験体に比較し曲げひび割れ損傷の発生が大幅に抑制され水平剛性の低下が防がれたことで,等価粘性減衰定数の増加が見られ所期の効果を発揮できることを確認した。また,W3-1試験体に取りつけた摩擦ダンパー部のボルト本数を倍増しボルト1本当たりの導入張力を25kN/本に制限することで,摺動時のボルト張力の減少による摩擦力の低下を防ぐ仕様としたW3-2試験体の水平加力実験を実施した。W3-2試験体では,減衰力200kNを安定して発揮できる荷重変形復元力特性を示し,想定通りにW3-1試験体に比較しより大きなエネルギー吸収性能が得られることを確認した。さらに,減衰力200kNを発揮しつつ,縦筋が引張降伏しないことを意図し,W3-2試験体(縦筋:D16×6本,D13×12本,150mm間隔,SD345)の1.5倍の断面積に相当する縦筋(D19×6本,D16×12本,150mm間隔,SD345)を配筋したW4-2試験体を計画し,水平加力実験を実施した。W4-2試験体では,減衰力200kNを発揮した際に,最外端の縦筋が僅かに引張降伏したものの概ね弾性範囲に留まり,縦筋の引張降伏領域の拡大に伴う塑性ヒンジの発生は抑制可能であった。
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