研究課題/領域番号 |
17K06653
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
那須 秀行 日本工業大学, 建築学部, 教授 (40611249)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 木質構造 / 木造住宅 / 耐力壁 / 制振壁 / 静加力実験 / 振動台実験 / 促進劣化 / 3次元解析 |
研究実績の概要 |
まず、在来構法向けテープ系制振耐力壁について、H29年度に・個体差によるバラツキ範囲の検証、・制振素材自体を促進劣化させた耐力壁の振動台および静加力実験、・建物全体での3次元挙動解析を実施(元々H31年度の実施予定を前倒した)。成果として、それまでの実験結果や実用面(施工性やコスト)等を勘案し、テープ系の最終仕様を「エチレン系未発砲素材(EPM4188)の片面接着」と決定した。最終仕様での同一仕様における性能のバラツキ度合を検証すべく、3体の振動台実験及び静加力実験を実施した。結果として、・振動台実験での挙動にほぼ差はなく、・静加力実験による残存耐力は約2割の低下に抑えられ、・残存耐力どうしの各試験体のバラツキは3割程である事を明らかにした。また、制振素材自体を劣化(約半年の促進劣化)させた素材を用いた壁実験も実施し、水平せん断力に対する剛性の向上と靭性の低下を定量的に検証した。3次元挙動解析では本制振耐力壁の効果を建物の倒壊有無として定量的に検証した。R元年度は、既存建物を想定し防水フィルム等含めた実用仕様にてテープ系制振耐力壁の静加力実験で効果を検証した。 次に、枠組壁工法向け摩擦系制振耐力壁については、H29年度に・摩擦系ダンパーを用いた制振耐力壁の研究を進め、幾つかの試作仕様で実験を実施した。H30年度は最終仕様にて振動台実験を実施し、極稀地震を含む複数回の地震に対する当該装置の効果を定量的に検証した。R元年度は製品として実用化され、50年相当に及ぶ中小地震を想定した起振機実験も実施し、試験体の仕様別に固有振動数の違いによる影響を定量的に検証した。 これらの研究成果は、WCTE2018、2020(投稿済)、京都大学生存圏研究所シンポジウム(発表3編)、修士論文(2編、優秀論文賞含む)、建築学会大会梗概(5編)、日本建築学会技術報告集などの研究実績に結び付いている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、当初H29年度~令和元年度の事業期間であったが、期間延長申請およびその承認に基づき1年の期間延長となった。理由として、当初の計画では令和元度に京都大学の強振応答装置を利用し極大地震に対する検証実験を予定していたが、京大より平成30年度末に当該強振装置が故障した旨の知らせを受け予定していた実験ができなかったことによる。 そこで令和元年度は計画変更し、日本工業大学内にて小型ではあるが既存の起振機を活用し、中小地震による50年相当という長期間のダメージを想定した実験を行った。なお、その際に必要となった機材の動ひずみ計と加速度計を本研究課題に対する助成基金の当該年度予算で購入したが、助成金総額としては若干の予算残のある状況である。 延長された令和2年度の研究実施内容については、先述の予算残を有効に活用して進めたい。京大の強震装置の復旧状況を勘案しながら進めるが、現在のところ当該装置の復旧や予約利用状況等が読めないため、日本工業大学内にて小型起振機を利用し長期間を想定した中小地震での実験と検証を行う公算が大きいと考えている。 なお、これまでに進めてきた部分実験や耐力壁での静加力実験、振動台実験および3時限解析などについては元々当初の計画以上に進展していたため、研究成果としては当初の見込をほぼ達成済みである。事業の最後の仕上げとして残りの研究助成金を活用した実験ができれば、研究課題としても当初の想定以上の成果が出せると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、在来構法向けテープ系制振耐力壁について、本研究課題で実施してきた主な点は次の通りである。・最終仕様の決定・同一仕様のバラツキ範囲、性能差の検証・建物全体の挙動解析による劣化抑制効果の定量的な効果の検証である。最終的な目的は、本研究成果を一般へも提供することで広く実用化して貰うことである。その為に、本課題の最終年度は、特に実用化に向けた実棟での施工検証や実棟での制振効果を検証したい。具体的には住宅メーカー等の実物件を用いた試施工や制振効果の検証を行いたい。 次に、摩擦系制振耐力壁については、これまでに仕様開発と検証を経て最終仕様での静加力実験および振動台実験を実施した。極大地震に対する良好な効果を定量的に検証した。R元年度に50年相当に及ぶ中小地震を想定した起振機実験を実施したが、試験体仕様ごとの固有振動数の違いによる影響が大きかったため、これらに同一に振動ダメージを与えられるよう工夫し再度実験をする予定である。或いは交通振動に対する効果検証も視野に入れている。こちらの仕様については複数回の極大地震に対する優位性として実用化が近いが、交通振動に対する効果も検証したい。具体的には、起振機を利用して制振耐力壁に振動ダメージを与え、その劣化抑制効果について残存耐力を比較検証する手法で検証を行いたい。 当初の研究計画では、学術論文の執筆を最終年度としていたが、これまでの3年間に既に研究成果として査読付論文を含め複数の発表をした。引続き積極的に発表し研究業績として積み上げていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では令和元度に京都大学の強振応答装置を利用し極大地震に対する検証実験を予定しており、その支払に充当する予定であった。しかし、京大より平成30年度末に当該強振装置が故障した旨の知らせを受け、予定していた実験ができなかったことによる。 そこで令和元年度は計画変更し、日本工業大学内にて小型ではあるが既存の起振機を活用し、中小地震による50年相当という長期間のダメージを想定した実験を行った。その際に必要となった機材の動ひずみ計と加速度計を本研究課題に対する助成基金の当該年度予算で購入したが、当初京都大学の強震応答装置利用費として支払予定していた費用より少なくなったため、若干の予算残のある状況となった。 この残予算については、現在のところ京大の当該装置の復旧や予約利用状況等が読めないため、日本工業大学内にて小型起振機を利用し長期間を想定した中小地震での実験と検証を行う公算が大きいと考えている。それに付随して必要となる費用に充当したい。
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備考 |
那須研究室 http://www.nit.ac.jp/gakka/subject/kyoin7/arc_nasu.html http://leo.nit.ac.jp/~nasu.hid/ Facebook https://www.facebook.com/Timber-Engineering-Lab-232240306849456/ ホームページにて研究成果(発表論文等)を報告している
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