研究課題/領域番号 |
17K06662
|
研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
貞末 和史 広島工業大学, 工学部, 准教授 (20401573)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 頭付きスタッド / ずれ止め / 合成梁 |
研究実績の概要 |
建築用としては1950年代に米国で開発された頭付きスタッドは、建築および土木構造物におけるシアコネクタ(ずれ止め)として広く普及し、今日の建築では合成梁や柱脚に適用されている。なお、国内では2011年に頭付きスタッドに関するJIS規格が改定され、軸径25φまでの施工が認められている。しかしながら、現行の設計基準・施工規則のほとんどは22φまでのサイズが基本とされ、作用する応力に対して鉄骨とコンクリートを剛強に結合するには数多くの本数が必要となり、収まりの都合で所要の本数を設けることが困難な場合がある。また、合成梁に関しては、日本建築学会の各種合成構造設計指針に設計法が示されているが、多数回の繰り返し荷重または大きな衝撃荷重の作用する梁への適用は認められていないため、頭付きスタッドに代わる剛強なずれ止めとして、土木構造物で用いられている「孔あき鋼板ジベル」や「バーリングシアコネクタ」と称された新型のずれ止めを適用しようとする試みも始められている。このような状況の中で、本研究では、鉄骨母材に頭付きスタッドを鉛直に溶接する在来型の頭付きスタッドに対して、頭付きスタッドを45°傾斜して溶接することで頭付きスタッド1本当たりのせん断剛性とせん断強度を増大できる新型の接合工法の実用化に取り組んでいる。 傾斜型頭付きスタッドの有効性を示すには、構造実験による検証を行なうことが不可欠であり、平成29年度は、頭付きスタッドの径、長さおよび配置を変数としたせん断実験を行なって、変数によってどの程度せん断強度が変化するのか確認した。さらに、非線形有限要素解析を行なって、せん断力を受ける傾斜型の頭付きスタッドとコンクリートがどのような応力状態にあるのか明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造実験の実施によって、以下の点を明らかにすることができた。 1つめは、正方向に傾斜溶接した頭付きスタッドは、在来型の頭付きスタッドと比較して、相対ずれ変位が小さい領域で高い剛性を有しており、最大耐力が大きいこと。したがって、片方向傾斜型の頭付きスタッドは、1方向に荷重を受ける小梁へ適用することが好ましいといえる。 2つめは、正と負の方向に交差して傾斜溶接した1組の頭付きスタッドは、片方向傾斜型の頭付きスタッドの性能より劣るが、在来型の頭付きスタッドと比較して、相対ずれ変位が小さい領域で高い剛性を有しており、最大耐力が大きいこと。したがって、交差傾斜型の頭付きスタッドは、正負繰返し荷重を受ける大梁へ適用することが好ましいといえる。 3つめは、正方向に傾斜溶接した頭付きスタッドは、引張力が卓越する抵抗機構が形成されて剛性と耐力が大きくなるが、これに伴いコンクリートのコーン状破壊を生じやすくなり、この破壊の有無は最大耐力に大きな影響を与えること。 計画した構造実験を実施し、期待した効果が得られる条件を明らかにすることができ、さらに、非線形有限要素解析の実施によって、どのような応力状態にあるのか判明したことより、本研究は順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
せん断力を受ける傾斜型頭付きスタッドを用いた接合部は、頭付きスタッドが材軸方向の力を受けることによって、せん断剛性とせん断強度が増大すると考えているが、頭付きスタッドの引張力が卓越することにより、頭付きスタッドの頭を起点とするコンクリートのコーン状破壊が生じやすくなるなど、在来型の頭付きスタッドでは起こりにくい破壊を生じることも予測され、期待する効果が十分に得られない場合もあると考えられる。したがって、種々の設計条件に対して生じる破壊のメカニズムを明らかにし、剛性や強度の増大効果が得られる適用条件を明確にする必要があると考えている。次年度の研究では、平成29年度に引き続き、小梁と大梁それぞれの荷重条件下における接合部試験体の静的載荷実験を行なってデータを収集する。実験変数は、頭付きスタッドの径(13φ、22φ)、頭付きスタッドの長さ、頭付きスタッドの配置と傾斜方向、コンクリート強度等とし、これらの変数がせん断剛性とせん断強度および破壊メカニズムに与える影響を確認する。実用化を想定した多様な設計条件を包含するデータを収集するため、平成29年度に引き続き、平成30年度も一連の系統的な実験を行なう予定である。13φ、22φ以外の軸径の頭付きスタッドに関しては、実験結果を内挿して予測できると考えているが、実験を補完する条件の非線形FEM解析も行なって検討する。 接合部の静的載荷実験と非線形FEM解析の結果、さらに、傾斜型あと施工アンカーに関する既往の研究で得られている知見を基に考察し、せん断剛性とせん断強度の増大メカニズムを解明して、接合部のせん断強度の評価式を構築する。また、設計条件によって破壊メカニズムがどのように変わるのかを明らかにして、せん断強度の増大効果が得られる適用条件を定量化する。
|