研究課題/領域番号 |
17K06667
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研究機関 | 国土技術政策総合研究所 |
研究代表者 |
柏 尚稔 国土技術政策総合研究所, 建築研究部, 主任研究官 (40550132)
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研究分担者 |
中川 博人 国立研究開発法人建築研究所, 構造研究グループ, 研究員 (80713007)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 建築基礎構造 |
研究実績の概要 |
BCP等のソフト的な災害対策の重要度が高まる近年において、地震後の建物の継続使用性を確保することの必要性が高まっている。この中で、大地震を被った時に生じる杭基礎の損傷は建物の沈下や傾斜に繋がるため、杭基礎の健全性は地震後の建物の継続使用性に大きな影響を及ぼす。ただし、杭の損傷は直接確認することが困難なため、現状として、杭基礎の損傷に対する継続使用性の判断根拠は明確になっておらず、杭基礎の健全性が十分に管理されているとは言い難い。そこで本研究課題では、過去の地震被害事例に基づいて、杭基礎の地震後残余性能の評価手法を提案すると共に、専門的な知識が無くても杭基礎の健全性の的確な判断を下せるような簡便な評価指標を提示することを目的としている。今年度の成果は次の通りである。 ・2016年熊本地震における杭基礎の被害事例の情報を収集し、杭基礎に被害が生じた建物の設計条件と近傍で得られた強震観測記録の情報を整理した。さらに、地盤-構造物系の動的相互作用解析を実施し、本震に対する建物の地震応答をシミュレーションした。その結果、杭および地盤の非線形化を考慮することにより、地震観測記録を概ね説明できることが分かった。 ・実被害事例のシミュレーションにおいて、杭頭の被害が基礎版の地震応答に及ぼす影響を評価した。その結果、地盤と杭の強度の違いによって基礎版の地震応答への影響度が異なってくることから、パラメトリックスタディによる分析により、その影響度を整理することの必要性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、過去の地震被害事例に基づいて、基礎部材の地震後残余性能の評価手法を提案すると共に、実験と解析の両面から杭基礎の健全性の的確な判断できる簡便な評価指標を提示することを目的として、下記に示す課題について取り組むことを計画している。A)実被害事例に基づいた杭基礎の耐震性能評価と杭の損傷検知対象の抽出 B)杭の損傷検知を目的としたモニタリング手法の開発 C)模型振動実験によるモニタリング手法の実証確認 D)杭の損傷の簡易評価指標の提案 このうち、平成29年度は課題A)と課題B)を実施した。 課題A)については、実被害事例をシミュレーションできる解析モデルを構築することができ、杭基礎の耐震性能を評価できたことから、概ね目標を達成できていると言える。 課題B)については、実被害事例のシミュレーションにおいて、杭の被害を基礎版の観測記録の関係を整理できたことから、概ね目標を達成できていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は上記課題のうち、A)~C)を実施する予定である。 A) 実被害事例に基づいた杭基礎の耐震性能評価と杭の損傷検知対象の抽出:前年度に引き続き、実被害事例を収集し、杭基礎被害が顕在化する場合の条件を抽出すると共に杭基礎建物全体の挙動を把握する。H30年度は、前年度と被害パターンや上部構造と基礎構造の耐力バランスが異なる事例を抽出し、データを整理する。 B) 杭の損傷検知を目的としたモニタリング手法の開発: 前年度に引き続き、地盤-杭基礎-上部構造の動的相互作用効果を考慮した被害シミュレーション解析により、モニタリング手法の有効性を検証する。H30年度は、A)で追加した被害事例に対して効果的なモニタリング手法を検討し、想定される被害パターンに応じて最適な方法を提示することで、本研究の成果が多様な建物形状にできる限り対応可能となるように結果を整理する。 C) 模型振動実験によるモニタリング手法の実証確認: 提案したモニタリング手法の有効性を模型振動実験により検証する。実験は(国研)建築研究所所有のせん断土槽と中型振動台を用いて実施する。重力場の実験になるが、できる限り被害建物の特徴を反映させた模型を製作することで、提案手法の実現化を促進させるデータを収集する。実験パラメータはH29年度で検討した事例より抽出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29については、実被害事例の重大さを鑑みて情報収集に努めたため、使用予定額が少なくなった。H29年度に実施予定の解析を実験は次年度に送ることとした。
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