研究課題/領域番号 |
17K06676
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
梅宮 典子 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (90263102)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 高齢者 / 転倒事故 / 注視 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、主に注視特性と光環境評価に関して研究を実施した。 1)歩行時における光環境と注視特性: 歩行時における注視点をアイカメラで測定し、顔面照度と瞳孔径の関係と、注視点の出現エリアから分析した。対象は平均75才の高齢者17人である。被験者は普段どおりの速さで廊下の指定された経路(約200m)を往復する測定を3回おこなう。照度は1秒、注視点は30Hzで記録する。その結果、1)顔面照度と瞳孔径との関係には個人差が大きく、照度が変化しても瞳孔径が変化しない被験者もいる、2)照度に対して瞳孔径が変化しにくい被験者は注視点が上下エリアに集中し、瞳孔径が変化しやすい被験者はエリア間のばらつきが小さい、3)1日2時間以上歩行する被験者は上下エリアの注視点のばらつきが小さい。すなわち、照度に対する瞳孔径の変化特性と転倒しやすさが関係する可能性を示した。
2)高齢者と若齢者の光環境評価の違い: 高齢者21人と高校生106人を対象に、1回の実験で照度を高照度(2200lux)から低照度(580lux)に(暗化)、低照度から高照度に(明化)、変化させて、各環境の明るさ、まぶしさ、快適性、好悪などを評価させ統計的に分析した。その結果、1)高照度と低照度の明るさ評価の差の強さは、変更順序に関わらず高齢者と若齢者で同じである。2)若齢者は明化における高照度が暗化における高照度より明るいが、高齢者は明化における高照度と暗化における高照度の明るさ評価に差がない。3)高照度と低照度のまぶしさ評価の差の強さは、変更順序に関わらず高齢者が若齢者より弱い。4)明化における高照度は明化における低照度より、若齢者は不快、高齢者は快適で好き。5)明化における高照度は高齢者が若齢者より暗い。暗化における低照度は高齢者が若齢者より明るい。すなわち、高齢者が若齢者に較べて光環境の変化に反応しにくいことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「研究業績の概要」の項で述べたように、1)歩行時における光環境と高齢者の注視特性や、2)高齢者と若齢者の光環境評価の違い について研究を実施して、照度に対する瞳孔径の変化特性が転倒しやすさに関係する可能性を示し、高齢者が若齢者に較べて光環境の変化に対する主観評価において、明るさ評価、まぶしさ評価ともに反応しにくいことを明らかにするなど、光環境の観点から、転倒防止のための一定の新しい知見を得ることができた。 しかし一方で、当初研究テーマに挙げていた3)転倒事故発生と屋外環境条件との関係に関する統計的分析や、4)高齢者施設における室内光環境の実態把握については、分析途中であり、論文を公表する段階に至っていない。また、1) 歩行時における光環境と高齢者の注視特性 についても、若齢者に関しても同条件で実験を実施したがまだ高齢者の結果と比較するなど分析を進めているところである。 以上のことから、現在までの進捗状況について、分析途中の課題が残されているものの一定の成果が得られていることから、「(2)おおむね順調に進展している」と判断することとした。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まず、1) 歩行時における光環境と高齢者の注視特性 について、若齢者に関して実施した高齢者と同条件の実験の結果について分析をおこない、高齢者の結果と比較する。また、顔面照度と注視点の出現エリアとの関係について、引き続き分析を進める。また、実験計画の当初は被験者を10名程度と予定していたが、予想以上に個人差が大きかったことから、高齢者、若齢者ともに被験者数を増やしてさらにデータを収集する必要がある。 また、3)転倒事故発生と屋外環境条件との関係に関する統計的分析では、事故発生当日の気象条件だけでなく、位相の遅れも含めて事故発生と気象条件との関係を分析する。4)高齢者施設における室内光環境の実態把握については、収集したデータを分析して気象台による屋外環境と室内環境との関係を調べ、照明の点灯状況を把握して、転倒事故多発期における屋外環境と室内環境の関係について分析をおこなう。 平成29年度は傾向を明らかにしたが、平成30年度は転倒事故防止のための指針の基礎となる結果を示すことを目標とする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予算申請当初に購入する予定であった機器のメーカーが当該機器の部署を廃止して機器のメンテナンスやバージョンアップを中止する方針であることが判明した。そのため、性能は落ちるが低価格の別のメーカーの機器を購入することにした。予算との差額は被験者協力金等に活用することにして、翌年度ぶんも確保した。
|