本研究の目的は、歴史的建築物の当初の雰囲気を的確に表現する照明改修の方法を提案することである。これまで空間の印象評価を行う際には、模型や実空間を用いる方法が主流であったが、画像を用いた評価も盛んになりつつある。2020年度はコロナ禍に伴い、実空間での評価実験を実施することが困難であったため、室内装面に使われる各種仕上げ材の材料特性を適切に表現する照明方法と画像の呈示方法に関して検討を行った。デジタル画像における室内装面の再現性と照明手法の関係を明らかにすることは、歴史的建築物をデジタルアーカイブとして記録する際にも役立つ。 実験条件は、照明の照射方向5条件、内装材7種類の計35条件とした。評価対象の内装材は、いずれも無彩色に近い試料を用いた。被験者は20名で、実物の内装材テスト―ピースを用いた評価実験と、デジタル画像に記録したものの評価実験との二部構成とした。被験者は照明ボックス内に設置した傾斜45度の試料台に乗せた内装材テスト―ピースを正面から観察し、内装材の印象について9つの形容詞対を用いて7段階で評価した。また、実物評価実験と同じ条件で撮影した画像をディスプレイに提示し、同様に評価した。 結果、今回評価した内装材7種類の印象は、力量性因子、美観因子、質感因子の3つで7割以上を説明できることがわかった。照明の照射方向が実物の内装材の印象に与える影響は有意でなかった。無彩色かつ表面凹凸が内装材に用いられる建材程度の場合は、照明の配光・照射方向の影響は小さいと言える。しかし、ほぼ全ての内装材で美観因子、質感因子に実物と画像とで有意差があった。建築内観の実際の印象を画像で再現するには、照明条件よりも撮影条件の影響が大きかった。
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