研究実績の概要 |
交通事故や労働災害などにより頸部の脊髄を損傷した頸髄損傷者(以下頸損者)は、ほぼ全身に及ぶ発汗障害、血管運動障害、熱産生障害、温冷感麻痺などの極めて重篤な体温調節障害を有している。研究代表者は長年にわたる人工気候室実験より、標準着衣量0.6cloにおける頸損者の至適温度範囲を24± 1℃(但し、相対湿度50%)と求めたが、同着衣量でのより詳細な頸損者の至適温湿度範囲を明らかにすることを目的とした研究を5年計画(2017~21年)で行っている。。 研究成果は、当事者とその介護者にとって、室内温湿度を調節する際の判断材料となり、また建築設備技術者にとっても、頸損者が使用する可能性のある公共施設などの空調設備を設計する際の資料として利用できる。研究成果は、頸損者のQOL向上に繋がるものと予想している。 本研究では、2017年度に5名の頸損者を人工気候室内で室温22, 24, 26℃(相対湿度50%)に各90分間曝露した。2019年度は、新規の研究協力者(頸損者)4名を2017年度と同環境条件に曝露した。全研究協力者数を10名と設定しているが、2020年3月に予定していた1名の人工気候室実験は、新型コロナウイルス感染症の影響で実施できなかった。この1名の相対湿度50%下での測定は、2020年度内に行う予定である。 9名の頸損者の測定データをみると、室温24, 26℃での口腔温平均値は安定傾向にあったが、室温22℃でのそれは下降傾向にあった。その原因として、交感神経遮断による手足部の血管収縮障害、胴部の非震え熱産生機能の低下が推測された。従って、研究代表者が長年にわたり蓄積してきた測定データも踏まえて、相対湿度50%における頸損者の至適温度範囲を推定すると、23~26℃と考えられる。 なお、全ての実験及びデータ分析は、倫理審査委員会で承認を受けた倫理的及び社会的配慮に順守して行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本大学生産工学部38号館学術フロンティア・リサーチセンター内に設置されている人工気候室で、標準着衣量0.6cloの実験用衣服を着た頸損者10名を対象とした被験者実験を行い、その温熱生理心理反応の結果より、頸損者の至適温湿度範囲の検討を行うものである。曝露温湿度条件は1名あたり9条件(室温22℃-相対湿度40, 50, 70%、室温24℃-相対湿度40, 50, 70%、室温26℃-相対湿度40, 50, 70%)で、1温湿度条件あたりの曝露時間は90分間である。 2017年度~2018年度の2年間で、設定した研究協力者数10名のうち、5名の測定を終えることができた(5名の頸損者を前述の9つの環境条件に曝露することができた)。 2019年度は、新規の研究協力者5名を3つの環境条件(室温22, 24, 26℃-相対湿度50%)に曝露する予定であったが、前述の通り、新型コロナウイルス感染症の影響により4名の測定に留まった。 しかし、仮に新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年度に実験を行うことが出来なかったとしても、研究期間の最後の年度(2021年度)までに、2019年度の測定を終えた4名の研究協力者を残りの6条件(室温22, 24, 26℃-相対湿度40, 70%)に曝露すること、及び2019年度に測定を行うことが出来なかった1名の研究協力者を、前述の9条件に曝露することは、時間的に可能と判断している。 なお前述の通り、全ての実験及びデータ分析を、倫理審査委員会で承認を受けた倫理的及び社会的配慮に順守して行っており、これまでに有害事象が起こっていないことも、研究がおおむね順調に進展していることを示している。
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