本研究の目的は、PM2.5、SPM10および総粉じん中の浮遊細菌濃度とグラム陰性細菌細胞壁構成成分のリポ多糖類(LPS)であるエンドトキシン(ET)濃度の関係性を調べるとともに、吸入による曝露リスクを推定することである。 まず、各粒子中の浮遊細菌とETを、同じ試料で測定するための「測定プロトコル」構築のため、捕集条件と各粒子の回収条件を決定した。構築した「測定プロトコル」に基づき、2017年度後半から2019年度前半に、2つの室内と屋外において月1回(2017年度と2019年度)または2回(2018年度)、PM2.5、SPM10、総粉じんを捕集し、各粒子中の浮遊細菌数濃度(cells/m3)とET濃度(EU/m3)を測定した。 2つの室内の両濃度は概ね外気の影響を受けていたが、室内の粒子別ET濃度の平均I/O比は0.1~0.6程度であった。粒子別の浮遊細菌数濃度とET濃度との相関性は、季節(4月~9月と10月~3月)により傾向が異なり、相関係数r値は高くても0.2~0.4程度であった。これより、時期により浮遊細菌の構成が異なることが推察された。 He et al (2013)は、0.355 ng/mgのLPSを含むPM2.5黄砂0.1 mg(0.0355 ng)を計4回マウスに気管内投与し、LPSが多いPM2.5黄砂が肺の炎症を増強させる可能性を示唆している。本研究の2018年度ET濃度結果(測定回数:24)より、成人男性(呼吸量12.0 L/min、PM2.5沈着率53%)の8時間曝露による肺内沈着量を推定したところ、2つの室内では1回を除きすべて0.0355 ngを下回り、屋外でも超えたのは3回であった。PM2.5中ET濃度が高い時が黄砂飛来時とは限らなかったこともあり、室内のPM2.5中ET濃度の健康への影響は高くないと考えられた。
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