研究課題/領域番号 |
17K06693
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
三宅 諭 岩手大学, 農学部, 准教授 (60308260)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 復興 / まちづくり / マネジメント / コミュニティ |
研究実績の概要 |
平成29年度は、Y町を対象として、震災後に役場等が行ってきた住民意向調査結果を基に、意向変化を分析した。時間経過による変化は様々であるが、年齢層が高い方が公営住宅希望へと変化している様子が見て取れた。一方で、増減する理由の仮説として、公営住宅の建設計画による影響が指摘される。すなわち、まちなかに公営住宅建設が公表された場合に一時的に増加していることが予想され、引き続きその検証を進める予定である。 次に、事業計画の変更内容について、住まいの復興行程表を元に高台に建設された住宅地の面積および画地数の変化を整理、分析した。全般的に当初より縮小傾向にあることがわかったが、小さな漁業集落より市街地周辺の方が、変化が大きいことがわかった。この要因として、もともと人口および世帯数の多い地域の方が変化が大きくなることは当然であるが、事業面積が大きい場合、事業期間も長くなることが多く、それが影響していると言える。つまり、一般的に指摘されている事業期間の長期化が、高齢世帯の意向変化に繋がったと考えられる。 また、海外の復興事例として米国ガルベストンの現地調査およびヒアリング調査を行った。1900年の大災害から110年以上が経過し、復興を経てまちの産業の変化や現状についてヒアリングしたところ、現在の主要産業は観光業でハイシーズンには人口の4~5倍の観光客が訪れるが、高所得者層は市街に居住する人が多く、復興したとは言えないとの指摘もあった。現地調査では、1900年の水害後に防潮堤が建設された地域とそれ以外の地域で住居の建てられ方が大きく変わっていること、防潮堤のない区域では2008年のハリケーンの影響が大きかったことを確認した。つまり、ガルベストンでは防潮堤が減災に効果的な役割を果たしていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基盤整備に関する変動要因の分析として予定していた住民意向調査および事業計画の変更内容に関するデータを順調に収集することができた。データ量が多すぎて分析が不十分な点はあるが、その理由は、一番難しいと思われた意向データを予想以上に集めることができたためである。平成30年度に引き続き分析を深める必要があると思われるので、平成30年度は当初予定より少し遅れることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は前年度収集したデータの分析を深めるとともに、事業計画の変更内容との関連について仮説の実証を試みる。 また、当初予定していたコミュニティ形成の方法と課題について、公営住宅、高台団地毎にタイプ分けして調査を行う。具体的には、公営住宅の場合には、集合住宅タイプ、長屋タイプ、戸建タイプに分けて調査する。高台団地では、自力再建が多い団地と公営住宅が多い団地に分けて調査を行う。調査分析方法は行政および支援団体、自治会へのヒアリング調査を行い、コミュニティ形成の取り組み開始時期、支援体制、これまでの活動を時間軸で整理する。さらに、新しいコミュニティと既存コミュニティとの関係構築について自治会等へ近所づきあいやイベント参加などの交流実態をヒアリングし、幅広い地域としてコミュニティの再構築が求められることを検証する。 その上で、復興事業後のまちづくりの鍵として期待されているエリアマネジメントに着想を得て、地域マネジメントの必要性と実現に向けた課題、方策を提示する。はじめにエリアマネジメントを導入している地域を対象に類型化を行い、類型毎の成果を行政ヒアリング、エリア内商業者ヒアリングなどから明らかにする。また、マネジメントの担い手の多くがまちづくり会社であることから、類型毎に運営上の利点と課題、今後の展開方策を整理する。 加えて、復興事業後のまちづくりには長期的戦略も必要であることから、災害から四半世紀あるいは半世紀、100年を超えた国内外の地域を事例に、長期的スパンでの人口、産業の変化、まちづくりの課題を整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた大きな要因として、設備備品購入を見送ったことが挙げられる。統計ソフトの購入を計上していなかったので、現有のPCを利用することとした。また、効率的な調査等により旅費等の支出を削減できたことが挙げられる。沿岸地域への出張は往復5時間必要とするため、なるべく往復する回数を減らして効率的な調査活動を行うことを念頭に行っている。加えて、学生等の協力を得る機会も多いのだが、学生も経験を重ねて短時間でデータ整理を行うことができるようになり、予想以上に謝金が少なかった。
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