本研究は、近年、伝統的な住居を保存して活用する動きが高まってきている中国において、伝統的な住居の形態や装飾だけではなく、空間構成と住まい方にも配慮し、地域の風土、住文化と密接に関わった持続的な住環境形成手法を開発することを目的としている。 中国福建省南部(ミン南地方)のミン南型四合院住宅を調査対象として、家族の単位であり近代化の影響を受ける「炊事空間」とミン南地方の特徴的な空間である「天井(中庭)」を分析の軸に、ミン南型四合院住宅の空間構成と住まい方の相互依存的な関係性から、伝統的な住居に住み続けられる近代的住環境への移行手法の開発を目指し、本研究が企図された。 中国福建省ショウ州市近郊の集落を対象として、農村住居の空間構成、住まい方の実態を調査した。2019年度の調査は、日本から新潟大学の教員2名、学生3名、中国から華僑大学の教員1名、学生4名、その他研究者1名の合計11名の調査チームを編成した。聞き取り調査、住居の実測、写真記録によって、伝統的な住空間と新築住居の空間構成と住まい方の変容を捉えた。さらに、ダイ美村の調査住居に対して、追加インタビューを行った。 2019年度の調査では、ショウ州市の集落を対象として、明・新時代の福建省ミン南住居の四合院形式と一列形式の住居、1980年以降に建設された三合院形式の住居を調査した。特に母屋と付属屋(厨房・水回り)の空間構成と住まい方の関係について分析を行った。伝統的な住居の半屋外空間(走廊あるいは歩口)が、新築住居では室内化し、母屋と付属屋が直接繋がるようになった。これらの住居において、プライバシーの確保、厨房の排気・臭気の母屋への侵入を防ぐ空間の仕切り方の特徴が捉えられた。また、天井にみられた水回り空間は、新築住居では住居の住居南側や東西住居間隙といった住居の裏側へ移動し、水回りが主要な生活空間から分離している特徴を明らかした。
|