研究課題/領域番号 |
17K06699
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
黒野 弘靖 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (80221951)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 雁木 / 町家 / 雪処理 / 祭礼 / 保全 |
研究実績の概要 |
令和2年度には、予定したとおり、湊町〈直江津〉において通りを含む雁木と町家の連続平面図と断面図を実測し、前年度に記録した夏季祭礼時の住人による雁木へのしつらえと神輿経路、迎え・礼拝・送りにおける住人の位置と行為を、連続平面図と断面図に時間経過に沿って記入した。これにより非日常における空間と活動の対応関係を分析した。通りを町内単位で往復する神輿経路および、各戸住人の迎え・礼拝・送りの雁木利用の位置変化により、非日常時には雁木の利用が日常のすべての人に開かれた公的性格から各戸住人に限定された私的性格へ逆転すること、各戸の自立性を町内住人が相互に承認する場がつくり出されていることを把握した。 通り中央に水路を持つ街路村〈稲田〉について、農業を営む雁木町家の1950年代と現在の配置図および断面図を作成した。稲田に生まれ育った80代住人への聞き取りにより、機械化前後の雪処理過程を配置図と断面図に作図した。機械化以前の雪処理過程から、農業を営む雁木町家の住人は敷地後ろ側の牛小屋の屋根雪を先に下ろし、その後に主屋前面と雁木の屋根雪を雪樋を用いて中央水路と通りに跨がるように堆雪させたこと、各戸住人が雁木前面の堆雪を利用して雪ミチをつくり、隣戸間の行き来や共用洗い場での水汲みにも利用されたこと、屋敷後ろ側の耕地からの作場道が中央水路を渡る橋の袂に班単位で櫓を組み、火災時に消防ポンプを橇で運搬して接続したことを把握した。以上のように、機械化以前の農業を営む雁木町家に特有の雪処理過程と、農業と商業を営む雁木町家の併存が共用の雪ミチ形成に至る過程を把握した。1960年代の機械化以後には、中央水路が河川改修後も開渠とされたことにより、個別の住宅建替の際にも水路沿い私有地内に屋敷間通路を確保する建物配置が継続していることを把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、雁木空間の公私領域の時間変化と町家・通りの相互関係として、湊町〈直江津〉において通りと屋敷を含む配置図と断面図を実測し、令和元(2019)年度の夏季祭礼における、住人のしつらえによる雁木空間と、神輿の迎え・礼拝・送りの活動との対応関係を図化し分析できたことによる。非日常時には、雁木と通りの公的・私的利用の境界を時間的に変化させることにより、各自の自立を相互承認する機会としていることを把握した。これは雁木町家の連続が生活に根ざしていることを示す事実と捉えられる。非日常時において各戸は雁木の利用の公私を日常から変化させ、それにより町家と通りの相互作用が生み出されていることを把握した。また、中央に水路をもつ街路村〈稲田〉において、農業を営む雁木町家の機械化前後の雪処理過程を配置図と断面図に図化し、令和元(2019)年度に作成した中央水路向かい側の商業を営む雁木町家の雪処理過程を示す配置図と断面図とつなげ、水路両側の雁木町家の雪処理が連携する手順を図化できた。これにより商家と農家が併存する〈稲田〉の雁木通りの根拠ならびに、町家から通りへのはたらきかけが通り沿い町家の相隣関係へ展開する要因を明らかにできたことによる。福岡県柳川市の堀割水路および京町歩道との比較については、新型コロナウイルスの感染拡大により現地での資料収集が延期となった。そこで令和3(2021)年度に実施する予定とした。以上の理由により、概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、当初に予定した3点について、以下の方策で研究を進める。 1. 雁木空間の公私領域の時間変化と町家・通りの相互関係 城下町〈高田〉と湊町〈直江津〉において通りと屋敷を含む配置図と断面図の縮尺を揃えてを実測を補足し、夏季祭礼における住人のしつらえによる空間と、神輿の迎え・礼拝・送りとの対応関係を記録し分析する。同じ直江津祇園社の神輿の巡幸が、城下町〈高田〉と湊町〈直江津〉それぞれにおいて、どのように住宅と道路の相互作用を生み出し、各戸の自立を確認する場がつくられているかを比較分析する。 2. 連続平面の変容過程 城下町〈高田〉と街路村〈稲田〉について、実測した通りの両側の雁木町家の連続平面図と断面図に機械化前と機械化後の雪処理過程を記録し、比較分析する。街路幅員の比較的小さい城下町〈高田〉の両側雁木町家の雪処理過程と、商家と農家が街路・水路をはさんで向かい合う〈稲田〉の雁木町家の雪処理過程それぞれにおいて、通り両側町家の相互作用が通り沿い並びの相隣関係へ展開する要因を明らかにする。 3. 柳川の堀割水路との比較による私領域の空間要素が公共性を獲得する根拠の解明 連携研究者の菊地は福岡県柳川市の〈宮永町〉と〈京町歩道〉において屋敷構えの変容過程から堀割水路の居住システムと雁木通りの形成過程を明らかにしている(菊地:日仏景観会議, 2007)。連携研究者にデータの開示を依頼し、現地で実測資料を補足する。〈高田〉と〈直江津〉と〈稲田〉で図化した雁木通りの居住システムと比較検討する。これにより伝統的な街路・水路空間において、私領域に属する屋敷構えの装置が都市空間の構成要素として公共性を獲得する過程と根拠を把握する。
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次年度使用額が生じた理由 |
福岡県柳川の堀割水路および京町歩道との比較検討は、新型コロナウイルスの感染状況が好転しなかったため、連携研究者の作成した資料の現地確認および補足実測が延期となった。このため調査旅費を次年度に繰り越した。令和3(2021)年度には連携研究者とのオンラインによる連絡を継続するため、モバイル対応のデータ通信機器を購し、連携研究者による調査資料の補足と研究打合せを確実に実施できる計画とした。
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