研究課題/領域番号 |
17K06701
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
稲上 誠 名古屋大学, 未来社会創造機構, 研究員 (40597803)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 枯山水庭園 / 実験美学 / 覚醒レベル / 感性評価 |
研究実績の概要 |
平成29年度には、庭園の写真撮影とVR装置の作製を行い、実験1(VR実験)を実施する計画であった。庭園の写真撮影は完了し、既に十分な数の写真を蓄積することができた。それぞれの庭園は、基本的に方丈(または書院)の縁側の中心位置から、魚眼レンズを用いて撮影した。後で画像解析に使用することを考慮して、全ての撮影を曇りの日に行った。VR装置の作製については、3台のディスプレイを組み合わせる予定であったが、スペースの制限のため、1台のワイドディスプレイを利用することにした。VRパノラマという技術を用いることで、庭園の魚眼画像を、投影の歪みが無い状態で表示できるようにした。被験者は、上下左右キーを操作によって、前方180度の環境を見回すことができる。実験1の実施には至らなかったが、その準備として簡単な予備実験を行った。 予備実験では、50種類の庭園の画像を提示し、23名の被験者に印象を評定していただいた。評定項目は、基礎評価(開放感、包囲感、複雑さ、自然さ、新奇さ)と感性評価(美しさ、面白さ、落ち着き、好ましさ)とした。分析では、実験美学の主要な理論の一つである、バーラインの理論を検証した。この理論によると、作品の複雑さや新奇さは覚醒レベルを上昇させ、中程度の覚醒レベルが感性評価を向上させる。つまり、覚醒レベルと感性評価の間には、逆U字型の関係が存在する。この理論に従い、複雑さと新奇さの評定値を合成し、覚醒ポテンシャルと定義した。そして、覚醒ポテンシャルと感性評価の関係を、二次関数を当てはめて分析した。その結果、美しさと好ましさには、覚醒ポテンシャルと共に増加し、漸近的にピークに達するという傾向がみられた。この傾向は、バーラインの理論を部分的に支持していると考えられる。この結果は、枯山水庭園の魅力を科学的に解明するための一歩として、画期的な発見であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
購入する生体計測装置の選定に時間がかかり、さらに、本実験の詳細な内容を決めるために、多くの文献を調査する必要があった。予備実験のデータをもとに感性評価のモデルを作成したが、先行研究で得られたモデルと異なっていたため、その結果を踏まえ、本実験の計画を変更しなければならなかった。また、本実験で生体計測を行うために、倫理審査の申請の準備を進める必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験のデータを用いて、複雑さと自然さの評定値に対応する環境要因(画像の変量)を探したが、まだ見つけることができていない。他の定量化方法も試してみる予定だが、もし対応する変量が見つからなかった場合は、環境要因を含まない評価構造のモデルを作成する。つまり、複雑さや自然さの評定値を用いて、それらが感性評価に至る構造をモデル化する。本研究の目的は、評価構造のモデル化と、感性評価と生体反応の関係の解明である。この二つを効率的に進めるために、実験を二回に分けて実施することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していた実験(実験1)を実施することができなかったため、被験者への謝金と細かな物品の購入費の支払いが生じなかった。この分の差額は、次年度に実験1を行う際に使用する。翌年度分の助成金は、当初の計画の通りに使用する予定である。
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