本研究は、瀬戸内海の島嶼部における木造建築に着目して、地方における地域の建築生産の変化とそれを促した要因を、現地での実態調査から明らかにするものである。その中でも特に、20世紀以降に建設された木造建築を対象にして、そこで採用された建築材料と構工法、及び建設に携わった生産組織の特徴について詳細に収集・整理した上で、それぞれがどのような変化の過程を辿ってきたかを解明することを主たる目的としている。
令和2年度までの調査結果を踏まえて、木造建築生産、特に木造住宅生産に欠かせない構工法・資材・協力業者の調達・適用の状況を把握するため、標準仕様と地域資源の利用状況に関する研究を進めた。前者では、木造住宅生産を担う大工・工務店が設定する標準仕様の在り方について、ヒアリングと資料収集を行うことにより調査し、その結果、標準仕様の決定には地域の生産資源の活用への意識という側面よりは、むしろ国の政策でもある品質・性能担保の側面や営業的な側面が強く影響していることが明らかとなった。一方、後者については、地域外の生産資源を上手に使いこなす者や地域資源にこだわり同業他社との差別化を図る者がいることが明らかとなった。 すなわち、モノとしての木造建築は国内全体の動向や流れに従った結果、他地域との共通性の高い内容になっている、ヒトについては地域依存の必要性は高いが、調達の難しい職人、技能や技術を地域外に依拠しなければ生産活動の維持が難しくなっていることとが分かった。
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