本研究は、地場産業が近代化する過程で形づくられた住宅群が現代の市街地に点在しているという状況に着目し、それら住宅群を都市のストックとして多面的に評価し、その再活用にむけた知見を得ることを目的に実施した。 具体的には、伝統織物・大島紬の生産地である奄美市名瀬の市街地において1950~60年代に建設された織工アパート群を対象とした。これらが地形的および歴史的な条件に根ざした住宅事情および当該産業の労働形態と連関しつつ形成されたこと、そしてその際に住宅建設にかかわる当時の公的制度が活用されていた実態を明らかにした。また、その後の産業変容に伴って変化した関係施設の現況を明らかにし、今後の政策上の課題について考察した。 まず、先行調査で所在が明らかとなっていた織工アパートについて、本研究ではその土地建物の登記簿を参照して建築的な属性に関する情報を補完するとともに、給与住宅として建設された際の資金融資の状況を把握することにより、労働政策および住宅政策上の支援を通じて形成されたストックとしての意義を明らかにした。また、登記簿上の所有者を対象とした調査を通じて、給与住宅から民間賃貸住宅へと変化して活用されている現状と管理上の課題を把握した。 次に、都市形成との関係の観点から、1960年代に町工場の多くが公有水面埋立事業を通じて拡大した新市街地へと移転していく一方で、紬工場はほとんどが市街地の内部に残ったこと点に注目した。これは住まいと結びついた紬生産特有の労働形態が背景にあったことが示唆される。また、織工アパートと同じ時代に政策的に供給された公営住宅群と比較すると、その立地に相違が現れていることを明らかにした。 本研究では以上の得られた知見をふまえ、現代の市街地におけるアフォーダブルな住宅ストックの一例として、奄美市名瀬の織工アパートの特性について考察した。
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