研究課題/領域番号 |
17K06736
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
田中 正人 追手門学院大学, 地域創造学部, 准教授 (40785911)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 孤独死 / コミュニティ / 社会的孤立 / 応急仮設住宅 / 災害公営住宅 |
研究実績の概要 |
東日本大震災の応急仮設住宅および災害公営住宅における「孤独死」の発生実態とその背景を明らかにする研究として,H29年度はその1年目の作業を実施した。柱となる調査は2つある。第1に,宮城県警による「検視報告書」の整理,第2に,応急仮設住宅および災害公営住宅の居住環境特性の整理である。前者については,県警の多大な協力により,順調に整えることができた。後者は予想以上にバリエーションが多く,未だ作業途中にある。以下の2つの論文を中間的な速報として発表している。 1)田中正人:東日本大震災における災害公営住宅入居者の社会関係の変容実態,日本建築学会学術講演梗概集 2017(都市計画),525-526,2017 [概要]災害公営住宅入居者への質問紙調査を通して,居住地移動と近隣関係の形成実態の関連を分析したものである。高齢層は一定の近隣関係を保有するものの,その背後には「諦めの中での安定居住」という側面があること,他方,若年層ほど近隣関係は脆弱であり,また定住意識は曖昧さが際立っており,「諦めきれなさの中での不安定居住」が継続していることが明らかとなった。もっとも,災害公営住宅の立地特性・空間特性は多様であり,そうした違いが生活再建に与える影響を捕捉していく必要がある。 2)田中正人:応急仮設住宅における「孤独死」の発生実態とその背景,東日本大震災における宮城県の事例を通して,地域安全学会東日本大震災連続ワークショップ2017 in 釜石,19-22,2017 [概要]宮城県警による「検視報告書」に基づく統計分析である。応急仮設住宅での「孤独死」の発生実態を明らかにした。非高齢層,男性,無就業層の孤立が背景にあり,アルコール依存との関わりが大きい。これらのことは,阪神・淡路大震災における「孤独死」ときわめて似通っている。今後,仮設住宅団地の環境特性との関連をみていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,2つの調査を柱としている。 第1の調査である,宮城県警による「検視報告書」の整理については計画以上に順調に進んだ。応急仮設住宅と災害公営住宅それぞれの「孤独死」者の情報を入手する必要があるが,まずは応急仮設住宅に限定してまとめを行った。県警の多大な協力により,早い段階で第1次のデータベース化が完了した。結果,上記のとおり,速報を発表することができた。一方,災害公営住宅については,予想以上に一般公営化(被災者以外の入居が認められる)の動きが早く,今後その精査にやや時間を要することが予想される。 第2の調査である,応急仮設住宅・災害公営住宅の居住環境特性の整理については,やや遅れが生じた。その理由として,県警からのデータ提供の方法がある。「検視報告書」は本来非公開のデータであり,多くの個人情報が含まれる。提供データは,そうした個人の特定につながる情報を排したものとなっている。その結果,「孤独死」発生住戸を把握したのちに,その環境特性を読み解くという手順を取ることは不可能となり,あらかじめ,できる限り詳細に環境特性を類型化しておき,どの類型の住戸において「孤独死」が発生したのかをマッチングする方法を採用することとなった。そのため,類型化の作業を最初の段階で入念に行うことが重要と判断し,当初計画以上に時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
第1に,データベース化作業の1つとして,応急仮設住宅団地の詳細分類がある。県内の全406団地のリストを充実するべく,構造,階数などの基礎情報に加え,特に立地環境の類型を精査する。あわせて,これまでの分析で明らかになった点として,中規模(200~300戸)団地の特殊性がある。すでに解体された団地も多いが,特にこのクラスの団地については現地調査も行う。さらに,見守り支援などソフト面の取り組みについても,行政や地元の支援団体へのヒアリングなどによって把握を試みる。 第2に,同じくデータベース化作業の1つとなる災害公営住宅の類型化である。前述の通り,すでに一般公営化の動きがみられるため,いかにそれを見極め,分析作業に反映していくかが課題となる。 第3に,阪神・淡路大震災との比較である。応急仮設住宅については,前年度にすでに中間報告を行っており,その結果と,過去に公表している阪神・淡路大震災の研究結果との比較検討が可能である。まずは学会の口頭発表で議論の俎上に載せたい。 第4に,関連分野からの助言を受ける機会を設ける。今回は,阪神・淡路大震災の「孤独死」調査を実施した際の共同研究者である上野易弘・神戸大学教授からご助言を賜りたいと考えている。上野教授の専門は法医学であり,東日本大震災発生時の検死にも携わっておられることから,有益な議論が可能と思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1に,データベース化作業に伴う変更があった。当初計画では現地(宮城県警)にて作業補助員とともに実施する予定であったが,一部,県警側がその作業を実施することとなった。よって,前年度の旅費ならびに補助員の人件費が予算を下回った。一方,個人情報保護の観点から,予定していたデータの一部が得られなかったため,別途,それを補う作業が発生した。前年度に下回った分を,この作業の人件費に充てる。 第2に,PCの購入時期を変更した。現場作業の場面で使用するPCの購入を予定していたが,情報漏洩防止の観点から,紙ベースでの作業が求められた。初年度の購入は見送り,データの2次加工の際に利用するため,次年度にまわすこととなった。
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