研究課題/領域番号 |
17K06736
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
田中 正人 追手門学院大学, 地域創造学部, 准教授 (40785911)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 孤独死 / コミュニティ / 社会的孤立 / 応急仮設住宅 / 災害公営住宅 / 東日本大震災 |
研究実績の概要 |
【実績1】田中正人(2018)「応急仮設住宅における「孤独死」の発生実態,阪神・淡路大震災と東日本大震災の事例」,『日本建築学会学術講演梗概集2018(建築計画)』,pp.115-118。【概要】宮城県に建設された仮設住宅での「孤独死」データをもとにした統計分析である。阪神・淡路大震災での結果と関連づけながら検討を行った。両者の「孤独死」には,年齢・性別分布やアルコール依存傾向,発見までの経過など多くの共通点がある。東日本では200~300戸クラスの団地が「孤独死」そのものを抑制し,また発見の遅れを抑制してきたが,ハード/ソフト両面の団地特性をさらに詳細に読み解き,これらの背景を探っていく必要がある。 【実績2】田中正人(2018)「被災地の「孤独死」問題からみた生活空間デザインの課題」,『2018年度日本建築学会大会都市計画部門研究協議会「復興まちづくりと空間デザイン技術」』,pp.89-92。【概要】実績1の結果をもとに,「孤独死」問題に対する建築デザインの役割について論じた。孤立した被災者にとって,社会的接点の再生の鍵は生活空間デザインにある。従前の暮らしに織り込まれていた,偶発的な接触を促す空間をいかに再現するかが問われる。 【実績3】田中正人(2018)「「孤独死」防止のために」,近畿災害対策まちづくり支援機構編『防災・減災・復旧・復興Q&A,大災害被災者支援の経験から』,東方出版,pp.74-76。【概要】市民やNPO,ボランティア,自治体職員を主なターゲットとして編纂された刊行物に寄稿した論考。なぜ未だ公式な「孤独死」の定義はないのか,高齢者の見守りを強化すれば「孤独死」を防ぐことはできるか,被災者の孤立はなぜ起きたのか,今後どうすればいいのか,といった問いに答えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災の応急仮設住宅および災害公営住宅における「孤独死」の発生実態とその背景を明らかにする研究として,H30年度はその2年目の作業として,以下の諸点を実施した。 第1に,継続して行っている宮城県警による「検視報告書」の整理である。応急仮設住宅分については概ね昨年度に完了していたため,今年度はこの間の新規分のデータの追加作業を行った。その際,「死後経過時間(発見時刻と死亡推定時刻の差分)」のデータについて,より詳細な提示を求めたところ,相応の誤差が含まれる前提での取得が可能となった。入手した数値をもとに,元のデータベースを更新した。現在,この最新データをもとに,今年度の成果を精査し,査読論文としてまとめている段階である。一方,災害公営住宅については,後述する居住環境特性の整理が完了した後にデータの提供依頼を行う予定であり,今年度はその方針について県警と調整し,了解を得た。 第2に,応急仮設住宅・災害公営住宅の居住環境特性の整理である。特に公営住宅のバリエーションが予想以上に多く,作業が難航していたが,年度内にほぼ整理が完了した。第3に,災害公営住宅入居者(単身者)への聞き取り調査である。目的は,上記の調査で得られたデータの統計分析結果の補強である。阪神・淡路大震災の調査から,被災前や公営住宅入居前の住宅・居住地のデータが重要であることが分かっている。しかしながら,今回の東日本の調査ではそのデータが捕捉できない。この点を,現居住者への質的調査を通して補いたいと考えている。これまでに5名に対して実施した。 第4に,阪神・淡路大震災の調査結果との比較である。前述の実績1がその中間的な成果である。第5に,関連分野の専門家との意見交換である。当初は法医学分野を想定していたが,予定を変更し,社会学(家族社会学,高齢者福祉)分野の研究者と議論を行い,貴重な助言を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
第1に,データベース化作業の1つとして,応急仮設住宅団地の詳細分類である。本来,すでに完了しているべき作業であるが,上述の聞き取り調査を先行させたため,今後引き続き実施する。県内の全406団地のリストを充実するべく,構造,階数などの基礎情報に加え,特に立地環境の類型を精査する。 第2に,すでに完了している災害公営住宅の分類をもとに宮城県警との協議を行い,県内の公営住宅で発生したこれまでの「孤独死」データを取得する。現在まとめつつある仮設住宅に関する査読論文を仕上げるとともに,災害公営住宅についても早い段階で速報を出したい。 第3に,災害公営住宅入居者への聞き取り調査の継続である。被災前からの居住履歴,被災状況,入居の経緯,家族・親族関係,近隣関係,就業状況,日常生活行動,通院歴,住まい方の変化などを追跡する。前述の通り,今のところ実施できたのは5名であるが,次の一年でも同数以上の対象者を確保したい。 第4に,引き続き,関連分野からの助言を受ける機会を設ける。当初予定していた,阪神・淡路大震災の「孤独死」調査を実施した際の共同研究者である上野易弘・神戸大学教授(法医学)からご助言を賜りたい。上野教授は東日本大震災発生時の検死にも携わっておられることから,有益な議論が可能と思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1に,データベース化作業に伴う変更があった。当初計画では現地(宮城県警)にて作業補助員とともに実施する予定であったが,一部,県警側がその作業を実施することとなった。よって,1年目の旅費ならびに補助員の人件費が予算を下回った。一方,個人情報保護の観点から,予定していたデータの一部が得られなかったため,別途,それを補う作業(居住環境特性の類型化,および聞き取り調査)が発生した。1年目に下回った分は,その作業の人件費に充てる。2年目に一部を使用したが,さらに3年目にも残りを充てる。 第2に,PCの購入時期を変更した。現場作業(1年目)の場面で使用するPCの購入を予定していたが,情報漏洩防止の観点から,紙ベースでの作業が求められた。データの2次加工の際に利用するため,当初から大幅に遅れての導入となるが,3年目に購入を予定している。
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