研究目的である数寄空間の地域性と多様性の実態把握、およびそれらの成立根拠となる生産体制、すなわち造営にあたった大工や庭師といった職人の動向や技術伝播の実態を明らかにするために、最終年度では昨年度から継続して東京青山に所在する根津美術館茶室群と京都市左京区に所在する住友邸を主に、実測調査による現状把握とともに造営史料を発掘し、考察した。根津美術館茶室群に関しては国立国会図書館で古写真を新たに発見し、造営直後の状況と今に至る経緯を知ることができた。また、移築や増改築を手掛けた大工から聞き取り調査をしたほか、所属する工務店に所蔵されていた図面類を調査し、建設、増改築の経緯とその意図を知ることができた。昨年度からの継続で島根県津和野町に所在する永明寺本堂及び庫裏の造営に関する史料の発掘と類例調査も行い、報告書を執筆した。上記のほか、本研究の目的に適う対象として京都市東山区に所在する大規模町家や滋賀県長浜市に所在する茶室に関する造営史料調査も実施し、整理・考察した。 本研究の目的を達成するためには日本全国の数寄空間を調査することが必要であった。しかしコロナ禍の影響から全国にわたる十分な調査を実施することは困難になったが、当初計画をしていた主たる地域に関しては調査を実施することができ、造営体制や技術伝播の一端を明らかにすることができた。また、各地での調査が当初計画通りに進めなかったことから京都を中心とした地元地域での実測調査や新たな史料の発掘をすることができ、有意義であった。 数寄空間に発揮される特質には技術的背景だけでなく、各地域の文化的背景を知ることも重要であり、その視点になって調査を行うことで、数寄空間の機能の意匠の多様性を明らかにすることができた。 なお、永明寺本堂及び庫裏の研究成果は報告書作成中である。また根津美術館茶室に関する研究成果は今年度の同館発行の紀要に執筆予定である。
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